アマチュア的に「歌うこと」を楽しむ。失ってはいけない歌への情熱と新鮮さ

僕が歌うことを仕事にする、つまり曲がりなりにもプロシンガーになって、かれこれ10年ほどが経ちます。

そして、その10年間、同じ熱量・同じバイタリティーで歌の仕事が出来ていたかというと、決してそんなことはありません。

いや、むしろ、やる気に満ちている時とそうでない時の差は割と激しくありましたし、今でももちろんそうです。

実は、プロシンガーとして週に何度もステージに立つようになってから4年ほど過ぎた時、僕は一旦シンガーとしての仕事を極端にセーブした時期があります。

この記事では、そんな僕の過去の経験から「歌う事に対する新鮮さを失うこと」「アマチュア的な喜びを持つことの大切さ」について書いてみたいと思います。

お付き合いください。


ライブで歌うことの悪い意味での”習慣化”

当時の僕は、昼間は普通に働いており、その上で週に3〜4回の夜にライブに出演する、という生活を送っていました。

そんな生活スタイルに突入したのは40歳の手前でした。その頃は体力的にもまだまだ元気であり、少々寝不足が続いてもライブで歌える喜びがそれを大きく上回っていたのでしょう、周りの人から見たらかなりハードな生活に見えたかもしれませんが、全然辛くはありませんでした。

それが、悪い意味で、歌の仕事に慣れて習慣化していき、肉体的な疲れも相まって、段々とステージに立つのが苦痛になってきました。

タイミング悪く声帯結節を患ったり、咳が止まらない時期があったりで、結局は週に3〜4日、多い時は週に5日〜6日にもなる歌の仕事を、週に1〜2日にまで減らしてしまいました。

 

ボイトレにも行き詰まりを感じていた

当時はボイトレにも行き詰まっており、自分の歌に対して全く自信を失っていました。結局、歌の仕事を減らしたのも、体力的に辛い!という理由を隠れ蓑に、自分の歌のマズさから逃げ出しかったことも大きいです。

その頃の僕は「声区の分離・強化・融合」のプロセスを含んだ正しいボイストレーニングをやっていたわけではありません。  当時巷で流行していた、即席にミックスボイスを作る方法で歌っていました。

今思えば、僕のモチベーション低下の何割かは「自分の歌のマズさ」によるものだったと思います。あの頃に正しいボイストレーニングに出会っていて、自分の歌にもっと自信を深めていたら・・・全然違った未来になっていたのかもしれません。

 

アマチュア時代の喜びを思い出し、噛み締めた

そうしてステージに立つ機会を減らしたのですが、その時、心の底から「昼だけ働くってこんなに楽なんやあ!」と強く感じたことを今でもありありと覚えています。やっぱりダブルワークはきつかった事は事実です。

僕は歌の仕事を減らすにあたって、いくつかの定期的なライブを断っていました。またその時期からアンフィールズというビートルズのコピーバンドを結成して、月に一度のライブに出演していました。

同年代のメンバーで構成され、4人全員が昼の仕事とのダブルワークで音楽活動をしているという点で、共通の仲間意識がありました。

そんな彼らとの練習やライブを経験する中で、僕は「アマチュア的な喜び」を思い出し、とても懐かしい感慨に浸った出来事があります。

 

僕が歌の仕事をセーブする前、つまり週に何度も頻繁にステージに立っていた頃の練習・リハーサルはほとんどすべて「開店前のお店」で行われます。

お店の開店時間は18時です。もし練習が必要なイベントライブなどがあれば、14時くらいからメンバーが三々五々お店にやってきてたっぷりと時間を使って練習やリハーサルを行う、というのが通例です。

一方、どこのお店にも所属していないアンフィールズは(ほとんどのアマチュアバンドがそうするように)どこかの練習スタジオを予約し、大体が2~4時間、時計とにらめっこしながら目的の練習をこなしていきます。

上に書いた2例の練習パターンでは、色々な事が違っています。

まず、開店前のお店でのリハーサルは費用がかかりません。片や練習スタジオでのリハーサルには「1時間〇〇円」という決まった料金が発生します。またお店でのリハーサルがほぼ“無制限に”時間が使えるに対して、練習スタジオで使える時間は“有限”です。

僕はアンフィールズでの練習やライブを通じて、自分がいかに演奏や歌に対して「喜びを失っていたか」に気付かされました。また、限られた時間で集中して練習することも忘れかけていたと思います。

それだけ自分の音楽に対する熱意が曇ってしまうほどの「ライブ過多な」生活を送り、「歌うこと=お金を稼ぐこと」になっていて新鮮さも失い、情熱が冷めていたのです。

 

忘れていた「素晴らしい日曜日」の夜の憂鬱

ある日曜日の夕方、僕たちアンフィールズの面々は京都のスタジオで、次回ライブに向けた練習を行っていました。決められた時間の中での練習は楽しく、あっという間に数時間が過ぎていきました。

練習を終えて、スタジオから出るともう外は暗くなり、あたりは日曜日の夜特有の倦怠感が漂っていました。

その時、メンバーの誰かがこう言いました。

「ああ、明日は仕事かあ、嫌だなあ」

僕はこの言葉を聞いた時、なぜか涙が出そうになりました。音楽に一生懸命だったアマチュア時代、多分僕はこのセリフを日曜日の練習やライブのたびに口にしていたのだと思います。

「今日のライブ楽しかったぞ!けれど・・・ああ、明日は仕事かあ、嫌だなあ」・・・日曜日の夕方は大好きな音楽を演奏して過ごした、それも一生懸命に時間を忘れて・・・。さあ明日からはまた日常に戻るぞ!というアマチュア独特の憂鬱・・・このセリフは日曜日の過ごし方が「素晴らしかった、楽しかった」と思える人だけが口に出来るものです。

ライブ過多によって「歌うこと」がお金を稼ぐ手段”だけ”に陥っていた時期の僕は、日曜日のライブを終えた時「歌って、演奏できて楽しかった!」と感じることが出来なくなっていました。そしてその「素晴らしかった日曜日」の対比として「ああ、明日は仕事かあ、嫌だなあ」とも感じられなくなっていました。

 

思い出したい「アマチュア的な喜び」

僕がステージで歌い、幾ばくかのお金を頂けるようになったこと・・・このこと自体はとても恵まれたことだと思っています。

たくさんいる「歌の好きな人」「ボイトレ学習者」の中で(どんな形ではあるにせよ)自分の声でいくらかのお金を得る事ができる人は、ほんの一握りだと思います。

歌を職業にしている僕は、歌に対する新鮮さや情熱を失わず、常にお客さんを笑顔にすることができなければなりません。それは音楽を職業にしている人全員の共通した”使命”であるといえます。

僕がアマチュアだった時代、日曜日のライブが終わってもその場を離れがたいほど楽しかった頃のように、また「ああ楽しかったライブも終わってしまった、明日は月曜かあ、嫌だなあ」と感じられるように、歌への新鮮さと情熱を失わないよう自分自身をコントロールしていかなければなりません!

 

ご精読ありがとうございました。

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