僕が初めてバンドを組んだのは高校生の時でした。
学友4人で集まり、それぞれ好きな曲を持ち寄り、スタジオで練習をし・・・もちろん、最終的な目標はライブに出演する事でした。
当時の僕は、ギターと歌を担当していましたが、自分がボイトレを受けようなんて発想はまるで無かったですし、周りにもそんな友達はいませんでした。あの頃(1980年代~90年代)に比べると、今はボイトレも随分一般化したと思います。当時はボイトレに限らず、ギターレッスンやドラムレッスンなど全ての楽器で「先生に教わる」という概念が乏しかったように思います。特に僕らが演奏していた音楽は「ロック」です。「ロックは人から教わるもんじゃない!」という考え方が皆の頭の中を支配していたと思います。
このブログを読んでくれた方(もちろんレッスンを受けてくれている方)の中で、特にバンドで歌っている人にとって、とりわけ重要な「モニター」について、この記事では書いてみたいと思います。
お付き合い下さい。
目次
ライブにおけるモニターの役割
ここでいう「モニター」とは、ライブ中に自分の声や楽器の音を聴くためのスピーカーの事を指します。(大抵は足元に置かれていますね)
会場のお客さんに聴かせるためのスピーカーとは別に、モニタースピーカーから聴こえる自分たちの出す音を頼りにバンドは演奏をし、シンガーは歌います。
そして、このモニターの状態の良し悪しが、その日の演奏に与える影響は絶大です。
特にシンガーにとっては「自分の声が聴こえない状態」で歌う事はとても難しいのです。(シンガーはギタリストのようにアンプのボリュームを上げて声を大きくする訳にはいかないのです!)
また、リハーサルで聴き取り易かった自分の声が、本番では聴き取りにくいと感じる事もざらにあります。(会場に誰もいない状態と、お客さんが入った状態では聴こえ方にかなりの差が出ます)
とりわけ、シンガーはモニターの状態に神経質になってしまうものです。
シンガーが、本番で自分の声が聴きとりにくいと感じた時に陥ってしまいがちな失敗は「声量を上げる・張り上げてしまう」事です。他の楽器の音に埋もれて、自分の声が聴こえないと感じると、反射的に大声になってしまうからです。これはもはや「声=伝達手段」としての「本能」と言ってしまっても良いと思います。なので「本能を抑える=自分の声が聴こえ辛くても大声にならない」訓練をしておかないと、いつもまでもこのスパイラルからは抜け出せません。
いつも潤沢なモニター環境で歌えるとは限らない
シンガーなら誰でも潤沢なモニター環境で歌いたいと考えますが、現実はそうはいきません。
上記で書いたように、リハーサルと本番とで聴こえ方が違っていたり、ドラマーがエキサイトして強く叩き出したためにバンドの音量が上がってしまって歌が埋もれたり、PAさんが不慣れだったり・・・とにかく、ライブでは予期せぬ不具合が起こりがちです。
そして、モニターは基本的にはPAさんの手に委ねられているので、本番中に自分での操作は不可能です。(もちろん、曲の間でモニター音量の上げ下げくらいはジェスチャーで伝えられますが・・・)
ライブで歌うシンガーは、モニターを絶対的なもの・常に自分の見方をしてくれるものだと「過信」し過ぎてはいけません。
「モニター環境が悪い」事を前提としておく
昨今、ライブハウスや練習スタジオの音響機器もとても性能が良くなっていると思うので「潤沢なモニター環境」で歌う機会も多いとは思いますが、それを当たり前だと思わない方が良いと思います。
ボイストレーニングの見地からも、高性能のマイク・申し分ない音量音質のモニター環境では開発されにくい事もたくさんあります。
高性能すぎるマイクは、全ての音をとても良く響かせてくれるので「母音の不整合」を覆い隠してしまい、自分に不得意な母音がある事に気付くのが遅れます。また不得意な母音はそのまま「不得意なアンザッツ」がある事とイコールです。やはり自分の喉を「どんな環境でも徹底的に鳴る楽器」に育てる意識を持つことがボイストレーニングにとってはとても大切だと思うので、僕は「高性能すぎるマイク」にあまりに頼る事には反対です。
モニターに関しては、僕はむしろ「聴こえにくい」事を前提としておくことにしています。
響かない音がある・すぐにバンドの音に埋もれてしまう・籠っている・・・どれもが、自分の喉に少なからずの原因があります。
僕はボイストレーナーとしてもシンガーとしても「モニターの状態に左右されない喉」に拘っていきたいと思います。
とっておきのために練習でのモニター音量は抑え気味に
バンドのシンガーの方への助言があります。
スタジオ練習でのモニター音量は抑えめにしてください。
そもそもモニターは自分の声だけではなく「バンドの演奏」を聴くためでもあります。
シンガーは自分の声だけを聴いていたのでは、バンド全体の音の中での自分の声の存在をイメージする事が出来なくなってきます。
僕の経験からいうと、日に日に「自分の声しか聴かない耳」が育ってきてしまいます。
スタジオでは、少し自分の声が「遠いな」と感じるくらいで練習した方が良いと思います。
そして、ライブでは練習より少しモニター音量を大きめに返してもらうようにしてください。
練習では重いバットをたくさん降ってきたバッターが本番で普通のバットに持ち替えるように・・・きっと上手く歌えますよ!
僕は普段のステージではモニター音量を極力控え目にしています。これは全体の音を良く聴くためと、アウェー環境でも臆せず歌うためです。ある時、大型スーパーの駐車場でビートルズナンバーを歌う仕事がありました。買い物客のほとんどはビートルズに興味がない事が分かっていたので、少々ひるみましたが、伝家の宝刀(モニターを潤沢にする)を使い、何とか上手く歌い切る事が出来ました。
まとめ
ライブハウスでのリハーサルでは「ボーカルさん、モニターの具合いかがですか?」と、丁寧に調整してくれますが、どこでもそうとは限りません。
「モニターのせいで上手く歌えなかった」となると、悔やんでも悔やみきれません。
人の手に操作を委ねているものへの過信は禁物です。
「上手く歌って喝采を浴びた」「上手く歌えなくて落胆した」・・・どちらも「喉の仕事」「喉の責任」です。
以上、ご精読ありがとうございました。