「声が暗くこもっている」事の解決の為には「鼻腔共鳴!」
「地声と裏声を繋いで」くれるのは「鼻腔共鳴!」
「鼻腔共鳴をマスターすればミックスボイスが出せる!」
ボイストレーニングの情報を得ようとすると、必ずと言っていいほど、「鼻腔共鳴」という言葉も同時に目にします。
そして、ミックスボイスを鼻腔共鳴を使ってこしらえようというメソッドさえ聞かれます。
まるで、魔法の杖のように書かれたこの「鼻腔共鳴」は、本当に発声改善のパートナーとなるのでしょうか?
今回はこのような内容の記事となります。
お付き合いください。
そもそも鼻腔共鳴とは?
まず前提として、発声を考える上では「鼻腔は共鳴の為の道具とはなり得ない」事が科学的根拠をもって証明されています。
共鳴は「喉から口にかけての声の通り道」によって起こるものであり、その他の場所、例えば胸や頭や鼻腔は、少なくとも現れる声のトーンを劇的に変化させる程の共鳴は起こしません。
チェストボイス(胸声)、ヘッドボイス(頭声)という呼び方が割と一般化しているので、誤解を招く元となっているのかもしれません。
ただ、声帯が息によって振動を得ただけでは声にはならないので、主に声の通り道での共鳴によって増幅され、声として発声されます。
あくまでも共鳴は「鼻腔」ではなく「喉や口」で起こすものだと考えた方が良いと思います。
「いや、鼻で響かせるようにしたら声が明るくなったぜ!」とおっしゃられるかもしれませんが、現実は以下の事が理由だと思います。
「鼻腔共鳴」の音的イメージは「平べったい声」だと思うので、そんな声を出そうとしたら当然「喉頭の位置は上がります」
そして、喉頭の位置が上がると声は薄く明るくなります。
つまり鼻腔共鳴云々というよりも、ただ単に喉の位置取りによる音の変化であると思います。
どの母音でも音が暗い・こもるといった場合には、シンプルに発声器官の未熟さが原因なので、裏声・地声のそれぞれ強化やアンザッツ等の基本的なボイストレーニングが先決だと思います。
ある程度、発声器官が自在に動き出し強くなってきたら(個人差がありますが、一年以上はかかりましょうか)、共鳴の問題とも向き合う事になると思います。
誰でも、母音によって響く音・響かない音の差が出ますし、音程によってもその差はあるでしょう。
またブリッジ(地声と裏声の境目)付近の響きが悪かったり、ビブラートがかけれなかったりするなら、声区の融合が甘いのでしょう。
ここで「母音の純化」という概念がとても重要になってきます。
これは、全ての音程・全ての母音で響きを調整するトレーニングです。
そしてこの「母音の純化」は声区の融合、つまりミックスボイスの成長さえも促してくれます。
もちろんこの時点でも「共鳴場所=声の通り道」である事は変わりません。
共鳴の問題に向き合う事は、声を完成させるためには絶対に通らなければならないプロセスです。
ただし、それは「鼻腔共鳴」について考える事とは全く違うと思います。
響かない・歌いにくい母音がある事は、苦手なアンザッツがある事とイコールです。例えば「イ母音」はアンザッツ5番が弱い人は歌いにくいはずです。さらにアンザッツ5番は声に明るさを与えますが、それは鼻腔共鳴とは一切関係がありません。
鼻腔共鳴とミックスボイスの関係
さて、続いて「鼻腔共鳴でミックスボイスが出せるか?」というと、これは厳しいと思います。
地声と裏声を繋ぐこと、またミックスボイスを出す事、この類の事は全て「共鳴」以前の「声が作られる」段階に由来します。
百歩譲って「ミックスボイスを鼻腔共鳴で強める」ならば、まだ話は分かりますが・・・
つまり、考えるべき土俵がそもそも違うと思います。
レコード針が壊れていて音が鳴らないのに、スピーカーのコーンをいじくって音を出させようとしているような・・・そんなイメージです。
結論として鼻腔共鳴はほぼ実態の無い物だと考えて良いと思います。
仮に鼻腔に僅かな共鳴機能があったとしても、僕たちの声を良くするためには、その何十倍も効果的な方法がたくさんあります。
ボイトレの道は険しいので非合理的な考えや方法は早々に捨てた方がよさそうです。
最後に、上記で書いた「共鳴の大部分を司るのは声の通り道」だ、という認識を是非ビジュアル化してみて下さい。
主たる共鳴場所は、決して頭や胸や鼻腔ではないことを!
声に関する仕事をするのはほぼ100パーセント「喉」である事。
そして喉から口の先までで全ての音の生成と共鳴を生み、さらには母音や子音を伴って、最終的に声として発声される、という事を常にイメージされると、今後のボイストレーニングにも「喉以外には仕事をさせない」という事への視覚的な具体性が加わって、より良いトレーニングの助けとなるかもしれません。
以上、ご精読ありがとうございました。