もし、明日のライブで声が出なかったら ~フースラー「うたうこと」風文体で~

明日のライブ、ちゃんと声出るかな?・・・

ボーカリストなら一度は頭をよぎる心配事でしょう。

よって「調子が悪いな」と感じた時にとる手段、その解決法云々は情報としてのニーズが高く、それこそ膨大に巷に溢れています。

  • 早く寝て明日にそなえる。
  • 当日のリハーサルでは声を温存し、本番に力を残しておく。
  • 水分をたくさん取る(2リットル飲め!と言われました。水って中々飲めませんよ…)
  • モニターの音量を上げて出来るだけ小さな声で歌う。

といった「なるほどなあ、やってみようかな?」と思うものから、

  • フレーズの途中で舌の奥を噛んで唾液を分泌して歌う(僕、やりました!)
  • 本番前にトンコツラーメンやカラアゲを食べて油で喉を滑らかにする(僕、やりました!)

といった『ホンマカイナ?トンデモ系』はたまた

  • 高い音程の部分はお客さんにマイクを向けて歌ってもらう。
  • 難しい歌をバンドのギタリストに何曲か押し付ける。
  • サビを1オクターブ下げる。

みたいな芸術表現そのものをねじ曲げるようなものまで、(本当に大まじめに)提案されています。

僕も仕事柄色々試しましたが、上記を含めた色々な方法で不調を回避できた事はほとんどありません。(多少はマシになる方法もあるでしょうが、現実的にはあまり役に立たないと思います。)

「声はナマモノだから」では済まされない不調時の調整の仕方、僕が不調でも歌えた今のことろ唯一の方法を「洋書の直訳風に(うんざりする程読みにくい)文体で!」書いてみたいと思います。

調子の悪い時程「ウォーミングアップに時間をかけること」です。このことは「ボイトレ格言」とも言える程、確かな事だと僕は思います。

この記事は「うたうこと 発声器官の肉体的特質(フレデリック・フースラー著)」風に書いてみました。このボイトレのバイブル的な名著は、こんなにも「物凄く読み辛い」という事をお見知りおき下さい。

お付き合い下さい。


準備編

今日のリハーサルであなたの声が高音で響きを失い、パッサジオ付近に大きな亀裂を感じた時は(ギタリストやドラマーがあなたに今日このまま歌う事を控えるように助言したならなおさら!)

バンドの明日の音楽的運命を左右する、このとてつもなく大きな問題について時間を割いて真剣に考慮する必要がある。

まず第一に、あなたの滑らかな高音無くして明日の観客は決して納得しないという事。(いかにギタリストが淀みなくソロを弾き終える事ができたとしても)

あなたの声はバンドの中心に添えられてしまうのだから。

そして、決められた曲目を一切変更せずに、高音をぼやかしたりファルセット的にしたり奇妙なフェイクに逃がしたりせずに、今あなたが持つ歌唱的能力によって相応の魅力を持って歌い切る方法を考えるべきであるし、あなたがその曲を練習で歌えていたなら、それは可能であるという事は確かな前提となる。

今日やるべき事。

自暴自棄的なアルコールの誘惑に打ち勝ち、出来るだけ早く寝る事。

そして明日は喉を温存したい誘惑に打ち勝ち、早々に起きる事。(明日になれば、少しでも多くの時間を声の調整に使うべきであるから)

ここからは、神経支配が滞り伝達が回り道をしているあなたの声を慎重に(しかし伝統的に)調整していくことのみに神経を尖らせる。

  1. 裏声を出してみる。言われずとも出来る限り弱々しく、息っぽく…。地声を出してみる。深く、低く(いわゆる胸っぽく)・・・
  2. 両方を交互に、少し強めてみる。裏声は漂うように息っぽさを失わず・・・地声もより深く強く。
  3. 裏声も地声も濁りがなく純粋になってきたら、少し歌ってみよう。あなたが今日歌う曲の中で一番歌い辛い、しかしあまり高音ではない歌をあまり大声でなく・・・

ほぼ間違いなく最初のサビに辿り着く前にあなたの声は濁り、押しつぶされ、滑らかな歌唱に激しく抵抗するだろう。

そうなれば再び1〜3の過程に戻って繰り返す。

今度はサビの途中で声は潰れて出なくなってしまうかもしれない。

飽く事無く1〜3を・・・そのうちに(多少の違和感は残るものの)あなたはこの曲を歌い切る事ができる。

次は2曲続けて歌ってみる、そうして段々と声を保てる時間を伸ばしてみる。

あとはあなたが観客の前に立つまでの間、絶え間なくこの事を繰り返しさえすれば(少なくともこの状態、自前の能力においては)最良の結果が導き出せる。

言うまでもなくそれはトンコツラーメンを食べる事よりも確信的に根拠のある声の回復工程なのである。

段階的に神経支配を回復させ、混合を解きほぐし、健全な声を取り戻していく・・・あなたは伝統的な声の回復過程の縮図を数時間の間で自分の喉に施した事になる。

ライブ当日の朝早くから入念な準備をしてきたとして、いざ本番でそのまま上手く声が出るかというと、現実は中々厳しいです。やっぱりステージではメンタル的に負荷がかかったり急に怖くなったりと、マイナス思考になりがちだからです。でも準備に時間をかけると「これだけやったんだし、もう煮るなり焼くなり好きにしてくれ!どうとでもなれ!」と、良い意味の開き直りができたりします。(実はこの開き直りはステージでの最終兵器となることがあります)とにかくギリギリまで声の調子を取り戻そうとした後、僕はこれから書く方法を本番で逐一試して、(ミックスボイスを急ごしらえして)効果を実感しています。

 

本番編

とにもかくにも、入念に準備したあなたがその日の「声のマエストロ」となるために目指す事は唯一

裏声と地声をミックスしやすい状態で歌い続けること!

このために出来る(考え得る全ての!)事を一つ一つ実践していく。

  1. フレーズの語尾を意図的に弱い裏声に逃がしていくこと。全ての語尾を、徹底的に!まるでメッサディボーチェのように!
  2. もしくは語尾を少しガム交じりに濁らす手段もやってみる。(無理矢理にミックボイスをつくるかの如く)
  3. 時々語尾をしゃくりあげて裏声に逃がす方法はどうだろう?とても効果的に違いない!
  4. よりリリックな表現こそ望ましい。今日に限ってはドラマチックな表現は自殺行為となる。(ジョーコッカーではなくクリストファークロスに憧れてみる)

これらを実践することによって、あなたが今日のステージで(心からの共感を伴った)拍手を得る可能性は飛躍的に高まる。

あなたは、今日に限っては全ての音節を確かに歌う事に最も多くの労力を割くべきなのだ。

今日に限ってはあなたの歌唱的嗜好は2番目の目標に留まるべきなのだ。

その事は破損した声で歌う事によってバンドの途方もない練習時間を無駄にし、観客の同情に満ちた拍手や憐みを浴びながら、虚ろにステージから引き上げるあなた自身を思い浮かべる事によって明白さを増すだろう。

※3.の「しゃくり」はB’Z稲葉さんをイメージしてください。
※4.ジョーコッカー→尾崎紀世彦(松崎しげる)、クリストファークロス→小田和正(スピッツ草野さん)に置き換え可能です。

不本意でインスタントなミックスボイスを一時的にこしらえる事にはなり表現にも多くの制約が出ますが、上記のような方法を駆使すれば、1ステージ歌い切る事が(うまくいけば段々調子を上げる事さえ)可能だと思います。(それなりの正しい訓練を積んできた人であれば!という条件付きですが)もちろん、次の日からは正しいトレーニングに戻って、このような不調が起こらないように努めていただきますが!僕は「常にステージで歌わなければならないトレーナー」としての立場から、上記のような一時しのぎの方法を本番で採用する事は否定しません。ステージで声が出ない悔しさ、辛さをよくわかっていますので!楽器は全ての音がきちんと鳴ってこそ!であり、それ以前に表現も何もあったもんじゃあありません。

※当教室の本来の目標は、あくまでも「本物の自由な声の獲得」です。普段のレッスンでインスタントなミックスボイスを推奨する事はございません。

 

以上、ご精読ありがとうございました。

筆者のプロフィール、ボイトレへの考え

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