「長い期間ボイトレに通っているが、一向に改善しないんです」
ある方から相談を受けました。
以下の状況だそうです。
- 5年前からボイストレーニングに通っている
- 最初の半年間はすぐに効果があったが、それ以来ずっと足踏み状態
- 10人ほどのグループレッスン
- レッスンの後半は課題曲(全員同じ曲)を歌い、一人ずつ指導を受ける
- 毎回、腹式呼吸など「腹に力を入れて」と指導される
結論を言うと、5年通っても効果がないのであれば、今後も効果はないと思います。
いくらボイストレーニングは時間がかかるといっても5年は長すぎると思います。
本人が「効果を感じない」と言っているので、先生もそれを感じているでしょう。
この生徒さんが我慢強かったとは思いますが、5年間効果なしは、明らかに問題だと思います。
5年という長い期間(週に一度のレッスンだそうです)、成長が見られないとなると、考えられることは・・・
目次
特定のメソッドに固執している
毎週のように「お腹に力を込めて」と言われるようなので、「腹式呼吸」に重きをおいたレッスンのようです。
この場合、「腹式呼吸の良し悪し」以前に、「効果の出ていない、特定の方法に5年もの間、生徒さんを縛り付けている」事が大きな問題です。
(たとえそれが僕のレッスンで行なっている「アンザッツトレーニング」による長期間の縛りであっても、同じ事です)
そのメソッドの応用で問題を解決しようとしている
つまり、「お腹に10の力を込めて」上手くいかないなら「20の力を込めましょう」というように、メソッドの問題点を考慮せず、その問題点をさらに推し進めようとしている可能性もあります。
こんな場合は、目先を変えないと同じ失敗を繰り返します。
それどころか、やればやるほど歌えなくなる可能性すらあります。
むしろ180度、見方を変えてみる事も一案です。
つまり逆に「お腹に力を込めないで歌う」事です。
全く反対の手法を取る事で解決する事はあり得ます。
なぜ、最初の半年間は効果があったのか?
まず、今まで歌をあまり歌ってこなかった人・ボイトレなんか受けた事が無かった人は、どんなメソッドで練習しても、最初は劇的に上手くなります。
たとえそれが、呼吸に頼ったメソッドであったとしても、全く歌っていなかった人の未使用の筋肉は、どんな声の出し方をしても、“最初のうちは”劇的に鍛えられ、驚くほど成長します。
しかし、訓練によって呼吸の量が増えれば増える程、呼吸の強さが強くなるほど、声帯はそれを受け止められなくなります。
また、同じ筋肉ばかり使っている状態だと、他の筋肉はずっと未使用のままであり、バランスは大きく崩れる事になります。
こういう風に、半年もしないうちに喉は「前より悪い状態へと」導かれてしまいます。
ボイストレーニングの難しさは、「そのメソッドが正しいかろうが間違っていようが、結果が出るまでに時間がかかる」というところにあります。
しかし、僕の経験では「最初から劇的な効果がある訓練ほど、激しい副作用がある」と感じます。僕自身も「この方法や!」と喜んだのもつかの間、すぐに前より悪い状態へと導かれてしまった経験が山ほどあります。あれこそが「激しい副作用」であったと感じます。
グループレッスンのマイナス面が出てしまっている
個人レッスンとグループレッスン、共にメリットとデメリットがあります。
僕の考えでは「ボイトレの基本は個人レッスンである」とは思いますが、僕自身グループレッスンを受けた経験から、そのメリットは確かにあるとは思います。
以下はグループレッスンのメリットです。
他の生徒の声を聴く事が出来る
「ある程度完成された先生のデモンストレーション」を聴く事とは違う、「自分と同じ成長過程の声」を聴く事ができるのは、大きな収穫となり、また今後のトレーニングの励みにもなります。
人前で歌う事に慣れる事が出来る
簡単なスケールでさえ、何人かの前で歌うとなると、大きなプレッシャーを感じるものです。
こういう緊張感は出来るだけ味わっておいた方が良いと思います。
ところが、今回のご相談者の場合は、ひょっとするとグループレッスンのマイナス面ばかりが際立ってしまっているのかもしれません。
喉があまりに未熟なうちから人前で声を出す事を強いられているために、委縮した状態でしかレッスンが受けられていないのかもしれません。
また全員同じ課題曲を歌う、という事も問題なのかもしれません。
当然、ある人には簡単でもある人には極端に難しいでしょうから。
あまりに、自分の現状の実力とかけ離れた課題は、何のトレーニング効果ももたらしません。
まとめ
「お腹に力を込めて発声する」事によって、5年もの間効果が無かった事はむしろ「お腹に力をこめるから効果が無かった」と判断する方が自然です。
あまりにも長い間、効果の無いレッスンを続けてこられたという事は、全く逆の事を実行するだけで、全てが上手く進み始める可能性があります。
「良いと思っていた事が効果がないどころか、害であった!」という事は、あり得る事です。
全く逆の事をやるとは、つまり
- お腹に力を込めない(喉に仕事を任せる)
- 個人レッスンにする
- 現状の実力に見合った課題曲を検討する
等です。
メソッドの良し悪しについては、3か月~半年を判断の期間とする良いと思います。あまりに短いトレーニング期間だと、良し悪しの判断が出来ないのです。また確信のあるトレーニングでも最低3か月の猶予が欲しい事がトレーナーにとってはジレンマです。
これだけ、情報が溢れている世の中です、少しでもボイトレの知識があれば回避できた問題もあります。
また、色々なメソッドを試してきて、失敗をたくさん経験しているトレーナーに習うことは、とても有益だと思います。
以上、ご精読ありがとうございました。