こんにちは!京都のボイストレーナー、石橋謙一郎と申します。
今回は「喉を傷める原因」について解説していきたいと思います。
歌う人にとって、喉を守ることはとても大切です。
”歌の楽器”である喉は、とても繊細につくられていて、ちょっとしたことでもすぐに傷ついてしまいます。
このブログでは、僕の10年以上のプロシンガーとしての経験からみた「危ない度ランキング」を記しながら、「喉を傷める6つの原因」について詳しく書いていきたいと思います。
このブログ記事があなたの役に立てれば嬉しいです。
では、よろしくお願いいたします!
目次
「歌の楽器」は、特別な楽器!
まずはじめに、次のことはよく覚えておく必要があります。
上手く歌えるかどうかは、「声がちゃんと出るかどうか」が、殆どすべてです!
ビブラートを気取ってみたりロングトーンで聴かせようとしても、そんな優雅なテクニックも「声がちゃんと出ていればこそ!」なのです。
満足に声さえ出れば誰でもある程度うまく歌えますが、逆に声が出ないときはどんなに頑張ってもお客さんを満足させることはできません。
僕は、このことが「歌の楽器」と「他の楽器」の大きな違いだと考えています。
例えば、あなたがピアノを弾こうとする時のことを想像してみてください。
あなたは「このピアノ、ちゃんと音が出るかな?」とは考えないはずです。ピアノは「ちゃんと音が出て当たり前の楽器」だからです。あなたの前には、とにかく「ちゃんと音が出る楽器」が用意されています。
一方、歌を歌おうとした時は、そう簡単にはいきません。
「今日は声が出るだろうか?」「高い声が出なかったらどうしよう?」、誰もがそんな不安を抱えています。
不安になって当たり前なのですよ!
練習して経験を積む以前の「歌の楽器」は、ピアノとは違って、そもそもちゃんとした音なんか出るはずがないのです!
あなたが持っている「歌の楽器(=のど)」は、壊れている!と考えるべきなのです!
でも、心配はいりませんよ!
僕の楽器ももちろん壊れています。それどころか、ほとんどの人の「歌の楽器」は壊れているのです。
はい、歌の上手いあいつも、あの有名な歌手も・・・ほとんど皆、程度の差こそあれ「壊れた楽器」で歌っているのです!
そんな不完全な楽器は、他にありません。歌の楽器は”特別な楽器”なのだから、特別な取り扱いが必要になってきます。
まずは修理(=ボイトレ)しないといけないし、これ以上傷めないようにしないといけません!
「歌の楽器」をこれ以上傷つけないように守りながら、壊れている部分を治していく・・・これこそがボイストレーニングなのです!

何かを身につける=何かを我慢する
あなたが「歌が上手くなりたいんや!」と真剣に考えているなら、何かを我慢しなければなりません。
例えば・・・クラシックギターを勉強している人は、ボーリングを禁止されます。クラシックギターは右手の指で弦を弾くため、右手の指に負担がかかるボーリングはやってはいけないことになっています。
何かを得るためには何かを諦めなければなりませんが、これは仕方がないことです!
これから書いていく「喉を傷める6つの原因」の中には、あなたが大好きなことも含まれているかもしれませんが、ここは思い切って諦めてくださいね!
では、いってみましょう!
お酒
★★★★★ 危ない度ランキング第1位
百害あって一利なし
お酒は人生の癒しです。僕もそう思います!
けれど、上手く歌いたいなら、少なくとも次のことは守りましょう。
- お酒は、歌う直前には飲まない。
- お酒を飲みながら、歌わない。
- 歌う24時間前には、お酒は飲まない。
1と2は絶対に守ってください。
考えてみましょう。お酒を飲んで車を運転することは法律で禁止されています。なぜなら、お酒を飲むと冷静な判断ができず、大きな事故をおこす可能性が高いからです。
僕は「歌うこと」が、車の運転より簡単なことだとは全然思いません。
より簡単な”車の運転”でさえ上手くいかないのに、それよりずっと難しい”歌うこと”が上手くいくわけありません。
そして、あなたがライブで歌うシンガーなら、ぜひ3も実践してもらいたいです。
お酒のアルコールは24時間では消えないと言われています。実際、僕はお酒を飲んだ次の日は一日中、体がだるく感じます。
バンドのボーカリストは花形ですから失敗は許されません、お酒はライブが終わってから楽しむようにしましょう。
また、お酒を飲むと冷静な判断や力の加減が麻痺するので、当然あなたは「不必要に大声で」「喉に力を入れ過ぎて」歌うことになります。
これは間違いなく喉を傷めますし、回復にも時間がかかります。
「お酒は百薬の長」は、歌には当てはまりません。歌にとってお酒は「百害あって一利なし」なのです!
お酒を飲むと上手く歌える?という錯覚
「お酒を飲むと上手く歌える」という人は以外に多い印象です。
その気持ち、僕も分かります。確かに飲みながら歌うと、なぜかスムーズに声が出る時があります。
けれどこれは危険です!そのあとに必ず声がガサガサになって、喉に何とも言えない違和感が生まれます。
さらに、耳の感受性も悪くなるので「上手く歌えた気分」になることがあります。
ライブで歌うボーカリストの中には緊張を減らすためにお酒を飲んでステージに上がる人もいますが、僕は反対です。
緊張減らしのためにライブ前にお酒を飲む癖がつくと、いつか「お酒なしではライブに出演できない」ということになりはしないでしょうか?ほら、寝酒の癖をつけると、「お酒を飲まないと眠れなくなる」のと同じように。
何よりも一番肝心なこと・・・お酒を飲んで歌ったあと、必ず喉は傷ついてしまいます!←僕の長年の経験から断言します!

最後に、お酒がなぜ喉を傷めるのか?喉に悪いのか?表にまとめてみました。
力の加減ができなくなって、不必要な大声になったり喉に力を入れ過ぎてしまう。 アルコールは水分を奪う(お酒を飲むと、異常に喉が渇く時があります)。 上手く歌えた気分になるから、今後のボイトレのためにも良くない。 ライブの緊張を取り除くためにお酒を飲む→ライブの緊張に立ち向かえなくなる。 |
無理なキーで歌うこと
★★★★ 危ない度ランキング第2位
近年、高い声が出ないと歌えないようなキーの歌が、ますます増えてきた印象です。
例えば仲間とカラオケに行った時、こぞって高いキーの曲を選曲して、無理に高音をしぼり出して歌っている場面も多いです。
一方「キーを下げて歌うこと」が、何か悪いことであるかのように感じる人も多いのではないでしょうか?
特に初心者は、無理なキーで歌って喉を傷めるケースがかなり多いのです。
ボイトレを始めたばかりの初心者は、自分の”今の”声域に合った曲を選んで練習する方が安全です。
あなたに合った声域の曲とな、どんなキーの曲か?それは、
何回か繰り返し歌っても、最後まで歌い通せる曲です!
ボイトレの長い歴史の中で守られてきた「その人に合ったキーを決めるセオリー」があります。
それは「ある音域を、どれだけ長く歌い続けられるか」が、その人の”今の”喉の状態を現わすのだ、というセオリーです。
あなたが、ほんの一瞬「高いド」の音を歌うことができても、それよりずっと低い「ソ」の音を長く歌い続けられないなら、あなたの”今の”キーは、あなたが考えているよりずっと低いです。
それほどたくさん高音が出てこない曲であっても、あなたがその歌を最後まで歌い通せないのなら、あなたの”今の”喉にとってその曲は荷が重いのです。
だから、初心者のあいだは「思ったより、私のキーは低いなあ」と感じることがほとんどなのです。
初心者のあいだは無理なキーで歌うことは慎みましょう!そうしないと、意外なほどあっさりと喉は傷つきますよ!
ただし、このこともよく覚えておいてください。
僕は上記文章の中で”今の喉”・”今の声域”と、繰り返し書きました。
今のあなたの声域は、あくまでもあなたの”今の”喉の状態を現わしているにすぎません!
正しい方法でボイトレを続けると、間違いなくビックリするぐらいにあなたの声域は拡がります!それくらい、人間の喉には可能性があるんです!
だから、最初のレッスンで「あなたの声域はこれです!」と決めつけてしまうような先生の元は、すぐに去りましょう。
ウォーミングアップしないで歌うこと
★★★ 危ない度ランキング第3位
陸上選手はストレッチなどをして体をほぐしてから本番を迎えます。野球選手は素振りやキャッチボールで体の準備をします。
同じように、歌手はウォーミングアップを必ずしなければなりません!それも、しつこく入念にしなければなりません!
体をほぐさずに突然走り出したりしたら、陸上選手はすぐに足を痛めてしまうでしょう。歌う人も同じです。
何の準備もしないで歌うことは、確実に喉を傷めます!
とはいえ、やみくもに大声を出せば良いというわけではありませんので、下記に正しいウォーミングアップの約束ごとをまとめておきます。
裏声をたくさんやる。※何時間やっても大丈夫です!
高い地声はやらない。 やればやるほど調子が上がるものは正しいし、どんどん疲れてしまうものは間違っている。 最初は声量を抑えて、段々と声量を上げていく。 喉に違和感があれば何かが間違っているか、無理をしていると考える。 |

大声で話すこと
★★ 危ない度ランキング第4位
「大声で歌う」と「大声で話す」、この二つは同じことのように思いますが、実は全然違うものだと考えてください。
そもそも「歌うこと」と「話すこと」は、声の作られ方に大きな違いがあります。そして、そのことは歌を練習するうえでとても大切なことなのです。
大声で歌う→経験を積めば大丈夫!
初心者が無理やり大きな声で歌おうとすると、これは間違いなく喉を傷めます。
声を大きくする・声量を上げるためには、地道にトレーニングを積み、声帯の振るわせ方・声帯のくっつけ方・共鳴腔や呼気の操作を体に覚え込ませる必要があります。
初心者は、無理なく出せる声量で歌うように心がけないと喉を傷めるうえに、喉はがんじがらめに緊張して、テクニックはまるで使えず、聴かせたい表現もぜんぜんできなくなります。
けれど、正しくボイトレを続けていると、無理をしなくても声量はついてくるので、大きな声で歌ってもそれほど喉を傷めることはありません。
「歌声」は喉頭だけではなく、呼気の筋肉・喉頭の周りの筋肉・その他たくさんの部分がまとまって活発に働いた結果として出てくる”特別な声”なのです。
プロの歌手や、歌の上手い人の声を聴くとビックリするくらい大声ですが、そこには無理がなく、鍛え上げられた「歌の楽器」が本領を発揮しているだけなのです。
大声で話す→喉を傷めやすい!
いっぽう、誰にとっても、大声で話すことは確実に喉を傷めます。
「話すこと」は「歌うこと」とは比べ物にならないくらい、体の限定された部分(主に喉頭だけ)で行なわれるものだと知っておいてください。
例えば、野球のボールを投げるときの動作をイメージしてください。
片足を上げて・・・右手を振りかぶって・・・上半身と下半身でバランスをとって・・・手だけでは投げずに、体全体を働かせて投げるでしょう。
では、肩から下をがんじがらめにガッチリ固定された状態でボールを投げようとしたら、どうなるでしょうか?
手だけを働かせることになるので、そうとう余計な力が入ってしまうことでしょう。そしてきっと、どんなに頑張っても、そんなに遠くへは投げられないはずです。
あなたが話し声を出すときには、上に書いたような「肩から下をがんじがらめにガッチリ固定された状態」が起こっているのです。
大きな声を出すために必要な「呼気の筋肉」や「喉の周りの筋肉」をほとんど働かせないで、あなたは大声で話します。
そもそも、大声で話すこと自体が、どんなに気をつけても必ず”無理を伴う”ことなのです。

大声で話す前には「歌のウォーミングアップ」を!
司会を仰せつかったり、呼び込みを頼まれたり、そんな「大きな話し声」が必要な前にはせめてウォーミングアップをしてください。
はい!大声で話す前には「歌用のウォーミングアップ」をやってください!あなたの喉を守ります!
「歌用のウォーミングアップ」をやっておくと、あなたの呼気筋や喉頭周りの筋肉が目覚めてきて、声は”歌声寄り”になります。つまり喉頭だけで発声するという危険な状態を避けられます。
これが一番です!ぜひ!
寝不足
★ 危ない度ランキング第5位
誰でもどんな仕事でも、寝不足では上手くいきません!
もちろん歌もそうです。僕も寝不足の日のステージでは、歌がどうもしっくりこないことがあります。
寝不足で歌った時の僕の感想はまず「耳の調子が悪いなあ」です。歌を歌うためには耳の感受性を鋭くしておく必要がありますが、それが上手くいかない印象です。微妙な音程の操作なんかが狂ってきます。
また、指先にできた小さな傷を想像してみましょう。ほんの小さなかすり傷でさえ、寝不足が続くと治りにくいものですね。
声を出す原動力となる声帯は柔らかい粘膜に包まれていますが、この部分はとても傷つきやすいと言われています。
もしこの「声帯の膜」が傷ついたなら、寝不足が続くといつまでも治らないことが想像できます。
ただ、僕が10年以上頻繁にステージで歌ってきた経験からは「寝不足で歌うこと」は、例えば「お酒を飲んで歌うこと」に比べると喉の傷みは少ないように感じています。
僕は、多いときは4夜連続でライブに出演する週もあります。
そんな時は当然、寝不足のままステージに上がることも多くなりますが、しっかりとウォーミングアップさえやっておけば、まあ何とか歌えるな!という感じです。ライブ後の喉の傷み方も軽いように思います。
寝不足を軽く考えてはいけませんが、僕の体感では「危ない度ランキング」は★一つの第5位となります!
タバコ
危ない度ランキング「???」
タバコも喉に良くないと言われています。
僕はタバコを吸わないので、自分の経験からタバコと喉の関係を書くことは出来ませんが、歌手仲間の話や推測から「やっぱり、あんまり良くないんだろうな」とは想像できます。
二人の歌手仲間から、こんな話を聞きました。
- タバコをやめたら裏声が復活した!
- タバコをやめたら高音の声域が2音ほど拡がった!
上記のような体験談から、少なくともタバコが何かの理由で「歌の発声の邪魔をしていた」ことは間違いないようです。
それから、僕が推測するのは「タバコと呼吸との関係」です。
最近のタバコのパッケージを見ると、長々と「肺へのダメージ」について書かれています。
歌声を出すためには「呼気の筋肉」つまり、息を吐く時に使われる筋肉の働きが絶対に必要なのですが、それに対してタバコが何か悪さをしていることが想像できます。
喉を守る≠過保護にする
「喉を傷つけない」「喉を守る」ことと、「喉を過保護にする」こととは、まるで違うことです。
「喉に違和感があったら、一週間練習を休みなさい!」といった慎重な先生も居ますが、僕はそういう指導には反対です。
確かに「生徒さんの喉がおかしくなってしまったら、先生は責任を取れるんですか?!」と問われると”石橋を叩いて渡る”ような指導になりがちですが、そんなヨチヨチ歩きでは生徒さんはいつまでたっても歌が上手くなりません!
練習を頑張ったあとのあなたの喉には、ぜんぜん心配のいらない「健康的な疲れ」が残ります。
そして「喉の健康的な疲れ」は、何よりもあなたの「声の音質」に現われます。
はい、そんな時のあなたの声は「健康的に疲れた声」の特徴を備えているのです!
一方、不健康な間違った練習のあとには、明らかに危うい「不健康に疲れた声の音質」が、はっきりと現れるものです。
この「聴き分け」は単純なものではなく、綺麗でハリのある声なら健康、汚く濁った声なら不健康というものではありません!
それを聴き分けるのも、ボイストレーナーの大切な仕事なのです。
だから、歌を練習する全ての人には信頼できる先生が必要だと、僕は考えています。
まとめ
歌は、声が出なくてはどうしようもありませんが、残念なことに、殆どの人の「歌の楽器」は壊れてしまっています。
ピアノなど他の楽器のように、ちゃんと音が出る楽器を手にしている人は少ないのです。
だからなおさら、これ以上傷つかないように楽器を守りつつ、壊れた部分を治していく(=ボイトレする)ことを頑張りましょう!
また、歌が上手くなるためには何かを我慢しなければなりません。
それはお酒かもしれないし、タバコかもしれません。が、「歌が上手くなる」という大きな目標のためには、ほんの少し辛抱しましょう!
僕が考える「喉を傷める6つの原因」、その”危ない度ランキング”は、次のようになります。
- 第1位 お酒
- 第2位 無理なキーで歌うこと
- 第3位 ウォーミングアップしないで歌うこと
- 第4位 大声で話すこと
- 第5位 寝不足
- ??? タバコ
けれども、あんまり慎重になり過ぎて「喉の健康的な疲れ」も怖がって長く練習を休むような”過保護”は、いただけません!それではいつまでたっても歌はうまくなりません!
「喉の不健康な疲れ」だけを注意していればいいんです!
「健康的な疲れ」と「不健康な疲れ」を聴き分けることができる良い先生のもとで、安心して思う存分練習できる環境があればベストだと思います。
最後になりましたが、このブログに書いたことが、あなたの「喉を傷つける不安」を取り除くために役に立ちますように。
応援しています!