ライブではボイトレのプロセスを聴かせてはいけない。ただし対策やコツは知っておくべき

ボイトレの道半ばでのライブ、何を意識してどのようにして歌うべきか・・・喉の機能回復への道は遠いです。ほとんどの人にとっての「ライブで歌う」こととは、そのまま「不完全な喉で歌う」ことに等しいです。

ある生徒さんから質問を受けました。

「ライブでは、ボイストレーニングでやっている練習の内容を強く意識して歌った方がいいでしょうか?それとも、ライブではボイトレのことは一旦忘れて自由に歌った方が良いでしょうか?」

この生徒さんは、自分たちでオリジナル曲を作って歌うバンドを組んでいて、月に1回は必ずライブに出演している人です。

この質問に対する僕の答えは「出来るだけ考えないで歌えることが理想ですが、ボイトレ学習中はそんなことは現実的に無理でしょう。だから上手く歌うための”対策“や”コツ“を頭の片隅に置いておいて、少し意識しながら歌った方が良いですよ。ただしお客さんに”ああ、この人はボイトレしているんだなあ”と悟られれることは避けたいですね」ということになります。

本当は「ライブでは喉のテクニカルな事は考えてはいけません。人間は皆“歌える生き物”なんです。どうぞ自由に感情のままに歌ってください!」と言いたいところですが、それはあまりに(現時点の彼には)無謀であり、あまりに壮大な理想を求め過ぎだと思います。

 

「喉のフォームから声の音質を導き出すこと」は避けるべきです

まず「出したい音色を、喉のフォームから作ろうとする」ことは止めた方が良いでしょう。

例えば「太く豊かな地声で歌いたい箇所」があるとします。そこを歌う時に「太く豊かな地声ということはアンザッツ3aである。ということは喉のフォームはこんな感じだから云々・・・」

または「次の音は少し喉を上げた鋭い声で歌いたいから、口角を広げて上げて歌わなければばらない云々・・・」

こういった事を連続して紡いでいった歌はもう「歌」ではなく、ただの無機質に並んだ音の羅列となるでしょう。

やはり「メンタルコンセプト」によって自分の喉が求める音を出してくれる状態を信じて歌いたいものです。歌声に関してあなたが最優先に考えるべきことは「声の音質」であり「喉のフォーム」ではありません。あなたが求める音色の声を出そうとすれば、喉はその音色を出す状態へと自然に変化してくれます。それこそが「喉の神秘」であり、他の楽器の演奏とは決定的に違うところです。

 

「この人はボイストレーニングを受けているんだな」とは悟られたくない

僕が観客なら、ステージで歌っているシンガーから「ボイトレの香り」を感じたくはありません。

あなたのお客さんは、あなたが「ボイトレのプロセス」を発表しているところを見るために会場に足を運んだのではありません。

教わった通りに「姿勢を正して」「顎を引いて」「決められた箇所で、決められた長さのビブラートを加えて」・・・練習をそのままステージに”そっと壊れないように”置きにいってもお客さんは決して喜びません。お客さんは、あなたがステージで”感情をほとばしらせる姿”を観たいと願っているはずです。

またあまりに杓子定規な「ブレス」も歌から精気を奪ってしまいます。もちろん歌の設計図には「息継ぎ」の場所を決めておくことは必要なことなのでしょうが、それがあまりにわざとらしいとお客さんは感情移入できずに冷めてしまいます。そんな型にはまったブレスは「練習のプロセス」だからです。

 

破綻なく歌うための”対策“や”コツ“は持っておくべきです。

歌を破綻なく歌うためには、「ミックス」「ブレンド」といった「声区の融合」に関する事には対策を講じる必要はあります。

僕は過去に「簡単にミックスボイスを作る」というボイトレメソッドをやってきて失敗してきた経験があり、「(裏声と地声の)分離・強化・融合」という基本的なステップを踏まないことには「歌える声」の完成はあり得ないと強く信じています。

そしてもちろん「簡単にミックスボイスを作る」方法を知らないので、教える事も出来ません。

けれど、実際にライブで歌う時には(地声と裏声を)「ミックス」「ブレンド」することを頭の片隅に置いて何らかの対策を講じていかないと、1ステージを歌い切ることは難しい、という事もまた事実です。

ましてや、質問してくれた生徒さんは「ボイトレによって喉を機能回復に導いている途中」の人なので、「ミックス」「ブレンド」を意識せずに何曲も歌い続けることは難しいと思います。

さて、このステージでの具体的な”対策“や”コツ“についても色々と考えられます。

一曲目に「ミックスボイス的な音色で」歌う曲を持ってきてはどうでしょう?音色の面からメンタルコンセプトを働かせ、声区ブレンドを促進させてくれるはずです。以降の曲は歌いやすくなるでしょう。

調子が上がるまでは「しゃくり(ヒーカップ)」「ビブラート」「泣き節」などの“ブレンド促進効果のある”歌唱表現をふんだんに使うことも効果的でしょう。

フレーズの最後の音を全て“裏声に逃がす”ように歌ってみて調子を上げる方法もあります。(フレーズ単位で、その都度メッサディボーチェを試みるようなイメージです)

上記のような”対策“や”コツ“は、一見飛び道具的にも思えますが、曲の持つ音楽的なカラーと合致していれば立派な歌唱表現として歌に彩を添えてくれます。(実際、多くのプロ歌手は、このような”対策“や”コツ“を表現として成り立たせ、「合理的かつ個性的な」歌声を作り上げています)

 

まとめ

ライブで歌ったときに「ボイトレのプロセス」がお客さんに明らかに伝わってしまったら、聴き手は感情移入しにくく冷めてしまうでしょう。

ただ、現実問題としてライブでは「声区融合」が(現状のあなたの喉の機能の中で)最大に促進された状態でないと何曲も続けて歌うことは難しいと思います。

そのためには上に書いたような”対策“や”コツ“を講じて、あなたが今持っている喉の機能の最大値を引き出す必要はあります。

ボイストレーニングとは、とても極端に(表面的にだけ)捉えると「声区融合への果てしない旅」だとも言えます。

ボイトレには少なくとも数年、実際には6~10年の長い時間が必要です。

ライブで歌うことは「声区融合への果てしない旅」の途中で立ち寄った港で、歌を披露するようなものです。

 

以上、ご精読ありがとうございました。

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