先日のあるライブの幕間、楽屋でドラマーと話をしていました。彼とはよく”練習のやり方”について語り合います。僕はシンガーなので練習場所に困ることはあまりありませんが、ドラマーにとってこの問題はとても深刻のようです。
そりゃそうでしょうね!ドラマーの苦悩は想像に足ります。楽器自体の大きさや音量は並大抵ではありませんし、値段も高い上にメンテナンスも大変そうです。何より自宅での練習はほぼ困難、ライブではその店のドラムセットを使わざるを得ない場合も多いでしょう。
もちろん「楽器を始めたい!」という衝動は凄まじいものです。楽器が高いとか、音が大きいとか・・・そんな合理的な考えで自分が学ぶ楽器を選ぶことはしないはずです。ドラムに魅了された人はこれからもずっと”練習の悩み”を抱えていかなければなりません。
個人的には、ドラムという楽器、僕は大好きです!大学時代のクラブの合宿の時なんか、空いているスタジオに忍びこんでドラムを叩くことが楽しかったです!もちろんレッスンを受けたりしたことはないので演奏は完全に出鱈目ですが・・・ドラムは歌に次いで”原始的な”楽器なのではないでしょうか?だれでも幼い頃、そのあたりにあるものを棒きれで叩いた経験はあるはずです。「バチのようなもので何かを叩いて音を出す」・・・とても本能的で自然な動作のように思います。
さて、上述のドラマーとの会話の中で、彼は「新しい練習機材を購入した」とのこと、詳しく聞いてみました。彼が購入したのは所謂”エレドラ(エレクトリックドラム)”というもので、実際に生の太鼓の音が鳴るのではなく、ゴム製のパットを叩くとデジタルに作られたドラムの音がイヤホンから聴こえてくる、というものです。外部にはパットを叩く音しか鳴らないので、自宅でも練習可能なうえ、足で踏み鳴らすバスドラムやシンバル(共に電子音)も揃っているので、実際のライブさながらの”フルセットを使った”練習ができるそうです。
さらに彼は続けてくれました。「”足の練習”が出来ることがとても大きい。手は普段から動かしているのであまり鈍ることはないけれど、足は意識的に練習しないとすぐに動かなくなるから」とのこと、実際彼はこの機材の練習効果を早くもライブで体感していると言います。「とにかく足がよく動くようになった」と。
なるほど・・・足でペダルを踏み、バスドラムを鳴らす・・・これは日常ではとても”登場頻度の低い”動きです。
彼は言っていました。「練習不足がたたると、ドラマーはまず足が動かなくなる。手の動きの方はあまり心配いらないけれど」と。
いつも使っている方はあまり心配がなく、使用頻度の低い方はすぐに錆びついてしまう・・・これは声にも同様のことが言えそうです。
一般的に男性は裏声が弱く、女性は地声が弱いと言われています。このことは僕自身がレッスンを通していつも感じていることでもあります。
ボイトレ学習者にとって一番シンプルな”宿題”・・・それは「弱い方の声区を鍛える」ことです。
ほとんどの人は(歌声という観点からは)アンバランスな声区の使い方で日常の生活を送っていると言えます。なので、何もしないでいると(あくまでも一般的には)男性の裏声はあまり使われず高音は失われ、反対に女性は地声で大きく発声することが苦手になっていきます。
これはドラマーにとっての”足の使用頻度”の問題と似ています。やっぱり使わない方はどんどん弱っていくものなんですね。これはもう、自然の法則とでも言えましょう。
新しい練習機材を手に入れた彼は、足の練習を毎日少しずつ行っているそうです。そのおかげで足の動きがずいぶん軽くなったと言います。
それはボイトレにおいても同じことです。「使わない声区の使用頻度を意識的に高める」・・・これは誰でも手軽にできる効果的なボイトレです。
また、狭く”声区の使用頻度”の問題にとどまらず、もっと大きな意味で”使わない声は弱くなる”という考えを持っていたいものです。
甲高い叫び・・・低い唸り・・・ありったけの大声・・・使わないでいるとどんどん弱くなって、ついには出なくなってしまうかもしれません。
以上、ご精読ありがとうございました。