布施明さんを聴く ~ビブラート・ロングトーン・フラジオレット(ホイッスルボイス)の宝庫~

昭和を代表する歌手の一人として必ず名前があがるのが布施明さんです。

僕が子供の頃、布施明さんは歌番組にもよく登場していて、素晴らしい歌声を聴かせていました。

僕にとっては「昭和の”上手い歌手”の代名詞」的な存在で、おそらく世間的な評価もその通りだったと思います。

Wikipediaには「伸びやかな声と豊かな声量の持ち主として知られている」と記載があります。

この「伸びやかな声」「豊かな声量」こそ、布施さんを形容する時に一番多く使われるキーワードではないでしょうか?

昭和歌謡の時代、布施明さんをはじめ、尾崎紀世彦さん、松崎しげるさん等も「伸びやかな声」「豊かな声量」を売り物にしていました。この3人のように「声量があり、伸びやかである事」が「上手い歌手」の条件であった時代なのだと思います。当時の歌番組は、後ろにズラッとビッグバンドが並び、歌手だけが中央に仁王立ちで、少しマイクを口から遠ざけながら一般人では考えられないような声量で伸びやかに歌う・・・こんな光景だったと思います。このような演出スタイルが「昭和のモード(流行)」であり、ビッグバンドの音圧に負けない「声量があり、伸びやかに歌える歌手」もまた「昭和のモード(流行)」だったのだと思います。

「声量がある」と「歌が上手い事」は、必ずしも直結しないとは思いますが、一聴して「伸びやか」だと感じる歌声は、喉の機能の高さを意味すると思います。

声区融合の未熟な声からは決して「伸びやか」という印象は受けないと思います。

もちろん布施明さんは「無茶苦茶上手い歌手」であることは間違いないのですが、ともすれば一昔前の「圧倒的な声量と、伸びやかな声」が特徴の、どちらかといえば「中音域(高音ではない)の歌手」という固定されたイメージがあるのではないでしょうか?

ネットでは「声量おばけ」という表現も見受けられます。

もちろん「圧倒的な声量」という、良い意味での愛称だとは思いますが・・・

どちらかというと地声を張り上げる、所謂「ベルティング」系の歌手だというイメージも強い人です。

今回は布施明さんついて、その歌声や歌唱テクニック等について色々と書いてみたいと思います。

お付き合いください。


布施明さんは「ハイトーン歌手」です

↑ヒット曲「君は薔薇より美しい」を歌う全盛期の布施明さんです。

布施明さんの歌声は、音域によってトーンの違いがあまり感じられません。

低いところも高いところも、均一化されて「伸びやか」です。

布施さんはまるで何もストレスや不安を持たずに、この難しい歌を楽々と歌っているようです。

あまりにストレスなく、しかも声質が高音でも豊かなままなので見過ごされがちですが、この曲の最高音「変わった~」の部分は「高いラ(Hi A)です。※ボイトレのデモ歌唱でよく聴かれるレミオロメンの「粉雪」と同じ音です。

それも、一瞬だけ出てくる「ラ」ではなくロングトーンで長く引っ張っています。

つまり、「君は薔薇より美しい」は、充分に「高音の歌」であると言えます。

布施明さんの歌声は太く豊かであり、喉の位置は決して高くありません。そのために声に「鋭い」要素は少ないので、聴き手はあまり高音に感じないのかもしれません。反対に喉の位置の高い、所謂「鋭い・細い」声質の人は、実際の音程よりも「高音に」感じられる事があります。

男性にとって「高いラ」の音は、母音を保つという意味でも、とても難しい音です。この歌での「変わった~」の最後の「ア」の母音を、布施さんは豊かさを保ったまま歌っています。この音程での「ア」母音は潰れてしまったりひしゃげてしまったり・・・本来はとても操作が難しいものです。

さらに最高音「変わった~」(1:31あたり)とロングトーンで引っ張った後に「フゥ~!」(1:38あたり)という布施さんの悲鳴に近いシャウトが聴こえます。

この「超高音の裏声」が出せるという事は、裏声のさらに高い声である「フラジオレット」が開発されている証拠です。

「高いラ」以上の音を頻繁に使って歌うためにはこの「フラジオレット」の開発が必須となります。

布施明さんは「中音域の歌手」というイメージが強い人ですが、本人がそのつもりなら「高音の歌手」としてハイトーンの歌を歌いこなす事は充分可能だったと思います。

「変わった~」の歌い出しで、少し「歪み声」も聴かれます。クリーントーンが印象的な布施さんの声からは意外な発見です。

 

喉の機能性の現れ=「ビブラート」と「ロングトーン」

ビブラートが自由にかけられる事は、喉の高度な機能の現れです。

布施明さんの声には、ほぼ全般にわたって自然なビブラートがかけられています。

「変わった~」の部分のロングトーン、そしてその後すぐの「フゥ~!」という高い裏声の悲鳴に近いシャウト・・・

「豊かな声量」に隠れがちながら、実は高レベルで喉を自由自在に操っている様子が見てとれます。

布施明さんの喉の機能は「恐ろしく高かった」といえると思います。

大きすぎる声量は時に、喉の自在性を奪います。布施明さんの場合は、聴き手が「凄い声量だ!」と感じる声量で歌っているけれど、喉の自在性を失っていません。力任せではない「本物の声量」であるといえます。

 

まとめ

布施明さんは「声量おばけ」な”だけ”ではありません。

圧倒的に自由な喉から導かれる豊かな声質を持ち、ビブラートやロングトーン、フラジオレットやガムを自在に操る事ができます。

声質に管楽器を思わせるようなふくよかな豊かさがあるため「地声を張り上げる=ベルティング」系の歌手だというイメージを僕は(そして多分皆さんも)持っていました。

しかし、実際は高い裏声が強力に開発されているように感じられるので、もう少し高い音域の歌も充分に歌いこなせるのではないかと思います。

ただし、もう少し高い音域の歌を歌うとなると「声質の変化」は間違いなく起こってくると思います。布施さんの声質の秘密は「地声の重り”が、絶妙な状態でぶら下がっている」事に起因します。この「地声の重り」が布施さんの声の最大の魅力の一つですが、もう少し高い音域の歌を歌うには「重り」を手放さなくてはなりません。つまり声はより「裏声に引っ張り上げられる」事になるので、今より「軽く・鋭く」なる事は避けられないと思います。

 

以上、ご精読ありがとうございました。

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