一聴すると良い声、実は悪い声 ~太い高音、裏返せない、声量自慢~

ボイストレーニングには色々な誤解があります。

独学で練習していた時に出していた声が、訓練価値の全くないものだった!とか、練習中に「失敗して出てしまった」と思っていた声が、実はとても重要だったり・・・

そんな「良悪の誤解をしやすい声」について、いくつか例を挙げて書いていきたいと思います。

今回の内容は「一聴すると良い声、実は悪い声」の一例となります。

どうぞお付き合いください。


良い悪いの判断基準

まず、ここでの「良悪」とは「美醜」の問題ではなく、純粋に「生理的に健康的か否か」に特化させていただきます。

美醜の問題は主観に左右されますが、生理的に健康な声か否かは客観視できます。

・・・と書き始めましたが!

結局のところ「生理的に健康な声」はほとんどの場合「美しい」です。

 

例えば「ガラガラしたしゃがれ声」でも、「健康的に出しているしゃがれ声」と「無理矢理に出しているしゃがれ声」では音としての現れ方は全く違います。

そして、不思議なことに僕たちは前者には美しさを、後者には醜さを感じることができます。

美しいガラガラ声は発声可能です!

つまり声の美醜の現れは、それが作られている状態・フォームの正しさに大きく由来します

そして、このことは「声を聴いて、喉の状態を推測するしか手立てがない」ボイストレーニングという分野の拠り所となる大前提となります。


では、具体的な例を挙げていきたいと思います。

改善すべき声の状態 4タイプ 

高音までやたらと太い声

「太い高音なら良いんじゃない?」とお思いでしょうが、意図的に細くも弱くも出来ない状態であれば大変不健康な状態で、すぐにでも発声を改善すべきと思います。

原因は「強すぎる呼気」です。

呼気が強すぎると声は太く硬くなり、音程や強弱のコントロールを失ってしまいます。

そして音程を呼気の量で調整するようになります。

高音は常にフラット気味になる上に、声帯はいつも痛めつけられている状態です。

悪い癖として身に付きやすく、最も改善すべき状態だと言えます。

所謂「発声とは呼吸や!」的なメンタルを植え付けてしまうと、マイクを持った途端に体がその状態へと持っていかれてしまいます。

フレーズを歌う前は大きく息を吸ってから!というような癖を取り去らねばなりません。

こんな状態に陥ってしまったら、声量を極端に落として高音を歌う訓練をしたり、呼吸の量を調整しながら歌う練習をしたり(本来、自然に任せるべき呼吸の調整をせねばなりません!)と、少々時間はかかります。

この悪癖は上手く歌えないどころか、声の寿命を縮める事にもなりかねませんので、ぜひ早めに呼吸の改善に取り組んでいただきたいと思います。

裏声が太くしか出せない(細い裏声が出せない)

もちろん裏声を育てる過程で、弱々しかった裏声を強く太くする事は必要なことです。

でも「裏声を意図的に弱く細く出来ない」となると、これは問題になってきます。

この場合は「裏声を力づくで持ち上げている」状態なので、裏声の更に上に存在する「フラジオレット」と呼ばれる声の抽出を妨げます。

簡単に言うと、声はその上に位置する声のサポートによって発声しやすい状態が作られます。

つまり、地声は裏声の手助けが、裏声にはこのフラジオレットの手助けが必要です。

よって、太い裏声しか出せない事は、ボイストレーニングを進める上で大きな障壁となってしまいます。

この場合は、少々不本意でしょうが、裏声を弱く出す練習をする事から始めていただきたいと思います。

「喉の自由度」という点から考えると、地声・裏声ともに「細くも・太くも」出せる状態が理想です。ボイストレーニングがある程度進んできたら、そんな正反対なトーンを敢えて発声していく事で、高いレベルの訓練を行う事ができます。

 

声が裏返せな

“ライブやカラオケで「声が裏返る」ことを避けたい!裏返らない繋がった声を得たい!”

ボイストレーニングの最大の目的の一つは「声の一本化」です。

つまり地声と裏声を繋いでいく作業です。

でも忘れてはいけません!ボイトレの究極のゴールは「真に自由自在な声を得る事」です。

ロックやポップスなどを歌う為の地声から裏声まで綺麗に繋がった声も、ヨーデルを歌う為の地声と裏声を意図的に裏返すような声も、どちらも出せる事が重要です。

でも声をあまり使ってこなかった女性や、男女に関わらず頻繁に歌っていながら不自由さを感じている方達の中には「声を裏返せない」人がいます。

原因は地声の弱体化、裏声が不純な事などです。

こういう場合は、まず「しっかり裏返せる声」にする訓練をして、地声と裏声をそれぞれ意図的にいつでも発声できる状態を作ることを何よりも先にせねばなりません。

地声と裏声がそれぞれしっかり出せる状態がボイトレのスタートラインであると言えます。

逆に言うと、音程を上げていくと声がコロッと裏返ってしまう人は、そのスタートラインには既に立てている、つまり決して悲観する状態ではないので、何も心配せずにボイストレーニングを進めていただければと思います。

 

いつも大きな声で歌っている

お恥ずかしい話、何年か前までの僕がこのタイプでした!

カラオケボックスなんかに行くと、隣の部屋から物凄く大きな声が聴こえてくる事があります。

「声量自慢」みたいな人が時々いて、こういう人の声は独特の太さと厚みがあります。

一聴して「声量があるね」といった印象は受けるものの、心地よいものではなく無理矢理出している感じを受けます。

そしてお腹に力を込めて、身体をこわばらせて絞り出すように歌っているので、何曲か歌うと疲れてしまいます。

もちろん大量の呼気も使っていますので、声帯の負担は相当なものです。

こういう場合は、まず発声においては「体に仕事を強いる」事は間違いであり、「仕事をするのはあくまでも喉」であるという、思考の切り替えをせねばなりません。

同時に「声量自慢」は歌の良さとは何の関係もない事、「声量があるね」は誉め言葉ではなく「大きな声だね」に等しい事、大きな声で歌う事より小さな声のコントロールの方がはるかに難しい事、そして体を硬直させて腹から出す声量は「理想的に働く喉が作りだす本物の声量」に比べると、質・量ともに勝負にならない、という理解が必要です。

長い期間、このような方法で声を出してきた人は、フィジカル・メンタル共に大きな方向転換を余儀なくされるので最初は少々ストレスを感じるでしょう。

でも僕自身もこの「酷い声量自慢・腹から声を出す系」の歌手であった訳ですが、幸い克服に至りました。

この機会にぜひ取り組んでいただきたいと思います。

正しいボイストレーニングを一年も頑張れば、今まで味わった事のない「喉が鳴る」という感覚も味わえると思います。

まさに「歌の世界が変わる」瞬間が訪れる事と思います。


上記は一例ですが、こうやって書いてみるとやはり「美しい声=美しいフォーム」であると益々確信致します。

素晴らしい声が悪いフォームから生まれる、そんな例外はひょっとして一例もないのかもしれませんね。

 

以上、ご精読ありがとうございました。

筆者のプロフィール、ボイトレへの考え

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