ボイトレは「芸術」や「美の追求」ではなく、「声の治療」です。なので、あなたの声の長所を伸ばそうとしてはいけません。短所を補い、欠点を無くしていくことを目指しましょう。
おはようございます!
11月も後半に差し掛かると寒い日が増えてきました。車での移動が多い僕は上着なしで過ごす期間が長いのですが、さすがにもう我慢できません!これから数か月は寒さに耐える日々を過ごさなければいけません。何しろ、京都の冬はとっても寒いので・・・
我が家では、ついにコタツの電源を入れてしまいました!コタツは魔物ですね・・・すべてのやる気を見事に削いでくれます!一度コタツのスイッチに手を伸ばすと・・・もう来年の3月くらいまではその柔らかい暖かさの虜になってしまい、一日たりとてお世話にならない日が無くなってしまいます。コタツもクーラーも、季節の最初にスイッチを入れる時は一大決心です!何しろ一度味わうと抜け出せない心地よさ!何と「不可逆的」な機器なのでしょう!
さて、話をボイトレの方に持っていきたいと思います。
冒頭で書いた一言は、ボイトレ学習者が(いや、ボイストレーナーでさえ)陥りやすい「美」と「機能」の分別について書いてみました。
フランス印象派の画家・ルノワールの名言に次のようなものがあります。
百の欠点を無くしている暇があるなら、一つの長所を伸した方がいい。
ルノワール
どんな分野でも「長所を伸ばすことが個性を作る」などと、欠点に目をつぶり長所を尊重する傾向があります。
例えば、「コツコツと小さな売り上げを積み重ねていく人」と「数は少ないが、時々大きな受注を取ってくる人」、タイプの違う二人の営業マンがいるとします。上司はおそらくそれぞれの長所を生かすように指導することと思います。言い換えれば二人の持つ「大きな仕事に目を向けられない」「コツコツと積み重ねられない」というそれぞれの欠点には目をつぶろう、それよりも長所を伸ばそう、という考え方です。
「声」「歌」に関して言うと・・・
「鋭く張りのある声で歌える。ハードなシャウトが得意。しかし豊かな太い声が出せず、ソフトなバラードを歌うことは苦手」という歌手・Aさんがいたとします。
そんなAさんへのアドバイスとして「君のその鋭く張りのある声を活かして、ハードな曲ばかり歌った方が良いよ!豊かな太い声で歌う事なんて諦めてしまいなよ!」・・・これがルノワールの言うところの”欠点を無くすより長所を伸ばす”ということになります。
まあ、確かに音楽的にはその方がAさんにとっての声の魅力を活かすことになり、お客さんへ強くアピールすることが出来るとは思います。
けれど、そのようなアドバイスを真に受けたAさんが”鋭く張りのある声”ばかりで歌い続けたなら・・・きっと声は固着して日に日に自由度を失い、いつかは今のままのキーでは歌えなくなってしまうでしょう。
有名な歌手が加齢とともにオリジナルキーでは歌えなくなり、何音も低いキーで歌っている姿を良く目にしますが、これは正に「声の固着」なのではないかと思います。彼らは日夜「特定の声で歌う」ことを観衆から強く求められています。なのでアマチュアの歌手よりも声の固着を作りやすく、歌手寿命も短くなるのかもしれません。
「出せる声」よりも「出せない声」に注目するべきです
上で例にあげたAさんの魅力である「鋭く張りのある声」は、あくまでも、喉の中で起こっていることの表面的な”現われ”でしかありません。それどころか自慢の「鋭く張りのある声」は声の固着の前兆ですらあり、その対岸には「豊かな太い声が出せない」という大きな問題が横たわっています。
ボイストレーニングにとっては「出せる声」「得意な声」よりも「出せない声」「不得意な声」の方がはるかに大切です。その声が”出せない”ということは、喉の中身がその声を出す時の状態を”作れない”ということです。
7種の声を出すボイストレーニングとして知られるアンザッツトレーニングでは、”不得意な声”を重点的に鍛えていくようにします。何と言っても「出せない声」が存在することが問題なのですから!
欠点を治してこその「声の治療」です
これまで書いてきたことも、「ボイトレは”声の治療”である」という前提で考えると、何も疑問に感じることはありません。
先述のAさんにとって「鋭く張りのある声」ばかりで歌うことは、左足を骨折しているのにそれを治そうとせず「俺は右足だけで生きていくぞ!」と決意するようなものです。そんなことをすれば左足はどんどん衰弱し、反対に右足にはアンバランスな分厚い筋肉が付いてしまい・・・とても不自由なことになるはずです。
奇声や素っ頓狂な声を出すことのボイトレ効果は確かにあります。これは「普段出さない声を出す」という意味での効果を狙っています。その声を”奇声”だと感じる裏には「私、あんな声出したことないよ」という心理が隠れているのですから。
以上、ご精読ありがとうございました。