イ母音が裏返る人のボイトレとウォーミングアップ 苦手な筋肉の動きを克服する

僕は仲間のシンガーにもレッスンをする機会があります。その人たちは、もうかれこれ10年以上もステージで歌ってきた人たちですが、やはり声の悩みをそれなりに抱えています。

あるシンガーからこんな質問を受けました。

「高い音を歌う時に、イ母音の時に決まって声が裏返りそうになる。どのようなボイトレをし、どのようなウォーミングアップをすれば良いか?」

実は、僕もイ母音が苦手で「高音で裏返りそうになる」感覚はとてもよくわかります。

今回はそんな内容で書き進めてみたいと思います。

お付き合いください。


苦手な母音=苦手なアンザッツ=苦手な筋肉の動き

苦手な母音、高音で裏返りそうになる母音があるということは「苦手なアンザッツがある」ことだとも言えます。そしてそれはそのまま喉が「苦手な筋肉の動き」を抱えていることを意味します。

今回の例である「イ母音」はアンザッツ1やアンザッツ5と深い関係があります。

つまり「喉の位置の高い声」が苦手なのです。(質問をくれたシンガーも「喉の位置が高い声」、つまり鼻にかかったような”鋭い声”が苦手だ!と自覚があるようです。彼は、声の”抜けが悪い”という悩みも持っています)

そして、言い換えれば「喉を引き上げる筋肉が弱い」とも言えます。

意図したアンザッツの音色が上手く出せないということは、「喉を吊る筋肉」のうち、その音質を出すための筋肉の働きが弱いと考えてください。(質問者は「苦手なアンザッツは5番」という認識も自分で持っています。)

 

アンザッツトレーニングのバランスを考える

毎日のボイストレーニングのメニューは、その人の現状の声の状態からバランスを考えて組み立てていく必要があります。

質問者の場合は、ことアンザッツに関しては当然ながら「5番と1番」をたくさん行なっていく方が良いと思います。

その際には「求める音質に出来るだけ近づける」「出来るだけ声量を大きくする」など、”トレーニングの質”にこだわるべきです。

現状の声の状態からバランスを考えて組み立てる」とはいえ、”全てのアンザッツが弱い”、つまり喉の機能をまだまだ充分に引き出せていない事は確かなので、他のアンザッツをおざなりにしてはいけません。「全てのアンザッツを強く、苦手なアンザッツはより強く」という考えで練習するべきだと思います。

今回のケースのように「喉を引き上げる筋肉が弱い」ことの解決の目安は、やはり”出てくる声”から判断することです。「もっともっと、耳をつんざくように鋭く大きく」という、音質的な目標を持って取り組んでください。

 

苦手な母音を意識してウォーミングアップする

さて、冒頭に書いたように、僕自身も「イ母音が苦手」であり、苦手なアンザッツもやはり「1番・5番」といった”鋭い系”の声です。

そして、質問者と同じようにかつては「高音で裏返りそうになる」恐怖の中で歌ってきました。

そんな「苦手な母音」に対する、本番前のウォーミングアップでの取り組みは、シンプルに「苦手な母音をたくさん使ってのウォーミングアップ」を丁寧に行うことです。

  • 「イ母音がたくさん出てくる歌」もしくは「イ母音のせいで歌いにくい、と感じている歌」をウォーミングアップ用に選ぶ
  • 「イ」が「エ」っぽくならないように、あくまでも純正な「イ母音」を保ってウォーミングアップする
  • 換声点(地声と裏声が切り替わるところ)の下のシ~ミ辺りに「イ母音」が使われている歌があればベスト

上記のように、苦手な母音から決して逃げずに、むしろその母音に(母音の純正な響きを保ちつつ)真正面から取り組んでウォーミングアップをしなければなりません。

ウォーミングアップでは単音やスケールよりも、実際の歌を使った方が良いと思います。(歌の中で苦手な母音が出てきた時を充分に想定しておかなければなりません。単音やスケールでは難なく出来ても、多くのことは歌の中では崩れてしまいます)

そして、換声点付近の「イ母音」を特にたくさん練習することです。(裏返りそうになる=声区融合が破綻する現れです。このあたりの難しい音程でウォーミングアップする必要があります)

普通、ボイストレーニングとウォーミングアップは別物ですが、上のようなウォーミングアップは「ボイトレとしても価値がある」と言えるでしょう。イ母音を使った歌を(母音の純正な響きを保ちつつ)歌うことは「喉を引き上げる筋肉」の強化になるからです。

 

僕の経験した「苦手な母音が克服される過程」

上に書いたようなアンザッツの練習、「イ母音」でのウォーミングアップをやり続けてことによって、僕の「イ母音」恐怖症は消えつつあります。

喉というのは本当に不思議なもので、歌っている途中で「あっ!次の音ヤバいな!」とか「裏返りそうだな」という”悪い予想”がつくものです。(そして、大抵はその通りになります・・・)

苦手なアンザッツ(苦手な母音)を克服するうちに、そんなリアルタイムな”悪い予想”が、どんどん減り、「上手く行きそうだな!」という”良い予想”に変わってきます。(もちろん大抵はその通りになります!)

つまり実際に歌う前から、不思議に喉は危険を察知してくれます。

苦手な母音・アンザッツ克服のために、上の項のような練習を続けていると、音質が改善されるに付随して「高音で裏返る恐怖」からはどんどん開放されていきます。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

今回は「イ母音」についての記事でしたが、あなたがもし「ウ母音」が苦手なら、アンザッツ3aや4それに6をたくさん練習して「喉を引き下げる筋肉」を鍛えた方が良いでしょう。

苦手な母音=苦手なアンザッツがある・・・喉の機能のバランスが悪いことに間違いはありません。

是非克服して、”悪い予想”が浮かばないようにストレスなく歌ってもらいたいものです。

 

以上、ご精読ありがとうございました。

筆者のプロフィール、ボイトレへの考え

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