カラオケなどで「若い頃は原曲キーで歌えていたけれど、今はキーを下げないと歌えない」
バンドのボーカリストが「昔のキーでは歌えなくなってきた」
そんな「歌のキー」に関する悩みは、結構日常的に耳にします。
そしてほとんど全てが「キーを下げないと歌えない」という悩み、つまりキーの悩みは「高い声が出なくなった」という事とほぼイコールであるといえます。
そして多くの人が加齢にともに高い声が出なくなりキーを下げて歌う→そのキーでも苦しくなり、さらに下げる・・・といった経過をたどってしまうのではないでしょうか?
バンドにおける「曲のキー」は、ほとんどの場合「シンガーの歌える声域」に準じて選択されています。(ギターやベースでは弾きにくいけれどキーボードでは弾きやすい、またはその逆という事はあり得るので「楽器による弾き易さ」でキーを選ぶパターンもあるにはありますが・・・)世界的なバンドでも、シンガーの加齢とともに段々とキーを下げていく例はとても多いです。またそれとは別に「レコーディングよりライブの方が常に半音低い」というパターンも多いです。曲のキーが半音高いだけで「煌びやかさ」「快活さ」も随分増すので、レコーディングではその辺りの効果を狙っているのでしょうか。この場合はバックのメンバーは「半音下げたチューニングで」演奏するのだと思いますが、いずれにしても他のメンバーにはかなりの面倒を強いることになります。それでもバンドにとっては「シンガーが歌えるかどうか」が最重要なのです。やはりシンガーは「バンドの顔」なのです!
今回の記事は、そんな「キーを下げたい」衝動にかられている人に向けて、なぜ段々高音が苦しくなるのか?また、それを回避する方法などを書いてみたいと思います。
お付き合い下さい。
「声の固着」が原因です
加齢とともに高音が出なくなる・・・世間で当たり前のように信じられていることですが、一方ではかなりの年齢まで高音を失わない人もいます。
喉はとても個人差の少ない器官です。「例外がある」という事は「やりようによっては、年齢を重ねても高音を保つ事が可能である」ということです。
では、何が原因で人は高音を失うのでしょうか?
それは、喉の同じ部分の筋肉ばかり使い続けたために起こる「声の固着」です。
声帯模写の達人や物真似芸人でもない限り、ほとんどの人は日常的に「偏った声のトーン」ばかりで話します。つまり使う筋肉が限定されている状態で生活していることになります。そして、歳を重ねるごとにその「偏り」は蓄積されていきます。
そして、気が付けばとても不自由な声の状態になり、高音も出なくなっている結果となります。
固着を解くボイトレをしましょう
そんな声の固着を解くには、ずばり「普段出さない声を出す」ことが有効でしょう。
普通に生活していたのでは使わない喉の筋肉があるわけなので、ボイトレでは意識的に「普段出さない声」のトレーニングをたくさんやっていきます。
「加齢による高音消失」は、概ね「声区の偏り」、つまり地声ばかりを使う事によって起こる事も多いです。
なのでシンプルに裏声をたくさん出すことによって、かなり改善されると思います。
特に男性は、日常会話で裏声を使うことが少ないので地声での偏りが起きやすいです。ボイトレのやり始めは裏声ばかりの練習でも良いかもしれません。
アンザッツメソッドをやる場合にも、出しにくい苦手な音色をたくさん練習すると良いでしょう。特にアンザッツ5番(鋭い裏声)は、効果があるといわれています。また奇声を発したり、動物の鳴き真似をやったり、といった「原始的な」発声をたくさん練習すると良いです。
「根性で頑張る!」ことはやめましょう
「今のキーでは少し苦しいけれど、気合で頑張る!」という人がいますが、これはやめた方が良いです。
こういう考えは「腹式呼吸」や「お腹に力を込めて声を出す」と同じ方向性になります。
仮に「根性を出して」現状のキーを保つ事が出来たとしても、その時の喉は一切の自由を奪われた状態であり、また声帯結節などの健康上の問題も引き起こしかねません。
「歌えていたキーが苦しくなってきた」という事は、何がしかの悪いことが喉に起こっていることは間違いないので、こんな時こそ「喉を機能回復させる」というボイトレの原点に立ち返らなければなりません。
まとめ
声とはシュナル(極低音)からフラジオレット(極高音)までをトータル的に自由にしていくものなので、「半音下げたから楽に歌える」というものではありません。
仮にキーを下げる事で無事に歌い終える事が出来たとしても、そこには何らかの不自由さが残っているはずであり、(キーを下げたい衝動にかられた時点で)声が固着する方向へ向かっている事は間違いありません。
意識的に普段出さない声をたくさん出す・・・この事を頭の片隅においておくだけでも全然違ってくると思います。
また「根性で頑張って元のキーを保つ」という考えは「呼吸に頼る発声」や「不健康な地声の張り上げ」を誘発します。
ぜひ原点に返って、正しくボイトレすることによって声の固着を解いてもらいたいと思います。
以上、ご精読ありがとうございました。