ボイトレ目線で読む「ヘヴィロック唱法の奥義 メタルシンガーのバイブル」

僕の好きな本で「ヘヴィロック唱法の奥義 メタルシンガーのバイブル」というものがあります。

所謂ボイストレーニング独習本ではありません。

内容は、一部実技的なページもありますが、ほぼ有名なヘヴィロックシンガー達のインタビュー集のようなものです。

「メタルシンガー」でない人も、「高い声、ハイトーンボイス」を得たいなら、このジャンルに対する興味は尽きないのではないでしょうか。

そして、掲載されているインタビューは、ジェフテイト、ジョーリンターナー、ブルースディッキンソン等、このジャンルの錚々たるビッグネームばかりです。

和訳もとてもしっかりしていて、読みやすいです。

インタビュー文中の一人称を「俺」と表記しているところも、このジャンルのワイルドなイメージに合致しています(笑)

ただ、荒くれ者っぽい外見の彼らのほとんどは、意外にも神経質にウォーミングアップする習慣があるようです。

登場するシンガーの中には、残念な事に全盛期と程遠い声になってしまっている人、歌えなくなった人、そして今なお全盛期と変わらぬ歌声の人がいます。

この記事では、この本についてボイストレーニングの見地から色々書いてみたいと思います。

お付き合い下さい。


呼吸法・横隔膜に対する考え方

肯定派と否定派が登場します。

それも完全肯定と完全否定という感じですが、割合としては肯定派が多いです。

そして過去にボイストレーニングを受けていた人もかなりいるようです。

登場するボーカリストは70年代80年代に全盛期だった人が多いので、ボイストレーニングのメソッド等のある種の流行・モードみたいなものがあり、呼吸法・横隔膜肯定派が多いのかなとも思います。

現在では、ボイストレーニングに呼吸云々を持ち出す事は間違いであるという「事実」が広まりつつあります。

 

声が出なくなる/声を今でも保っている~この差は?

それぞれの最近の歌声を聴いたり映像を見たりすると、大きく分かれてしまっています。

そして時間が経てば経つほどはっきりと差が出ているように思います。

声が出なくなったシンガーの特徴は全盛期から「ある種の重さ」が声に感じられます。

そして年齢を重ねるにつれて声が益々「重く」なっています。

一方、「ある種の軽さ」を保ったシンガーは今でも変わらず昔の声を保てています。

シンプルに音としての現れからみて「重い声」は地声優勢、「軽い声」は裏声優勢だといえます。そして「重い声」のシンガーの方が声を早く劣化させています。

さらに声が出なくなってしまったシンガーの歌っている姿を見ると体に力を入れて全てを硬直させて、もしくは大きな呼気圧で声を押し出しているように感じます。

事実、インタビューの中でも“もっと強く押し出したい時は云々”という表現が出てきますので、彼らの中に“押し出す”感覚はあったのだと思います。

そしてそれは呼吸の助けでもって歌う時の感覚イメージと合致します。

有名シンガーの彼らも「呼吸法・横隔膜主義」発声法の真っ只中に置かれていたのでしょう。

一方、「軽い声」のシンガーの歌う姿を見ると”押し出す“ような仕草、硬直の様子はありません。

押し出したり硬直したりすると「軽い声」では歌えません。

「裏声優勢の声」が彼らの「出したい声」だったので、幸運にも、そもそものボーカルスタイルが安全性の高いものだったと言えます。

仮に両者共が呼吸や横隔膜に頼らない発声法を身に付けていたとしても・・・

声の自在性・耐久力・経年劣化の有無を決めるのは「裏声がいかに地声をサポートできるか」なので、もし両者の喉が機能的に同じ条件ならば、「重い声」を特徴とするシンガーよりも「軽い声」を売り物にするシンガーの方が長く安全に歌う事ができます。

「重い声」で歌い続けるには、より強靭な喉の機能が必要になります。

 

声を失ったシンガーは・・・

スタイル的に「重い声」で歌い続けるしかなかった→声が固着し更に「重く」なる→より体を硬直させ、強い呼吸で声を押し出す→益々声が「重く」なる・・・こういったスパイラルに陥っていたのだと思います。

彼らは度重なるツアーやレコーディングで限られた声質だけしか使わないため、アマチュアよりも声の固着は激しいと思います。

つまり「声の使い過ぎ」というよりは「同じトーンの声の使い過ぎ」とも言えましょうか。

普段の話声が歌声と同じような「重い声」であれば、その影響も積み重なるかもしれません。

野球の右利きのピッチャーは時々、左投げの練習をすると聞きます。

これも一種の固着を避けているのだと思います。

筋肉の同じ部分だけを使い続けると必ずバランスを崩します。

このジャンルのシンガー達が必要とする声は「重く激しい」ものがほとんどで、「軽く漂う声」を特徴とするシンガーは少数派です。

またそんな声がジャンルのマナーともなっています。

音楽のスタイルは機能性や安全性によって縛られたり方向転換させられるものではないと思うので、これからも彼らは、とてもとても強靭な喉の機能を必要とするのでしょう。

流行に左右されない本当に正しいボイストレーニングが見直されてきているので、「望むような重い声で歌い続けたい!」ならば、それは叶うような時代に入ってくるだろうと思います。

ましてやネット上でさえ有益な情報が得られる時代です。

学習する側のアンテナの張り方によってはプロであろうとアマであろうと最良の喉の機能を手に入れる事が可能だと思います。

 

「ヘヴィロック唱法の奥義 メタルシンガーのバイブル」は現在廃盤のようです。

中古品は流通しています。

 

以上、ご精読ありがとうございました。

筆者のプロフィール、ボイトレへの考え

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