「喉という楽器」の難しさ・扱いにくさについては再三過去の記事でも書いてまいりました。
体調の変化を受けやすく、傷つきやすい、痛むと買い替えが効かない。
目次
そして、育てるのに時間がかかる!
しかし、本番がやってきたら「まだ未完成な喉」であっても、とにかく歌わなければなりません
今回は、「ボイトレ学習者=喉の機能回復の道半ばの人」と考え、現状の未完成な喉でどのように歌うか?について書いてみたいと思います。
お付き合い下さい。
喉の完成を待っていたのでは、時間がかかって仕方がありません
普通、楽器は「完成した状態」で手に入れる事ができます。
壊れたギターで練習を始めようとする人はおりません。
しかし、歌の場合は「壊れた喉」で歌う事を余儀なくされます。
この場合の「壊れた喉」という意味は声帯結節が出来た、などの病的なものではなく、「すべての現代人が陥っているとされる音声障害」という意味です。つまり生物としての人間は歌える力を失っている、という考え方です。
喉が完全に機能回復を遂げるには、数年単位(一説には6年!)の時間がかかると言われています。
ボイトレ学習者の方は皆、「楽器を直している途中」であるにも関わらず、歌ったり話したりしなければならない、と考えてはいかがでしょうか?
「楽器が完成してから演奏する!」という考え方は、歌には当てはまりません。そんなことをしたら何年も歌う事を我慢しなければいけません。
その人それぞれの「喉の回復状態」で、使えるテクニックも変わってきます
歌う上でのテクニックも、その人のボイトレの進み具合・喉の回復状態によって変わってきます。
例えば・・・
- ビブラート
- しゃくり・こぶし
- ロングトーン
こういったテクニックは「喉の能力」に完全に依存します。
つまりボイトレをやり始めたばかりの人・喉の機能が未熟な人に、いくら「ビブラートかけなさい」といったところで、出来ないのです。
ただし、訓練の中で常にビブラートをかける努力はした方が良いです。どんなテクニックでも常に「使う努力」をして喉に働きかけなければなりません。
また・・・
- ミックスボイスで繋ぐ
- 高音になるほど声を細くする
- 声に歪みを加える
こういう類のものは、相当な喉の能力がないと難しいでしょう。
つまりボイトレ初期においては「ミックスボイスで繋ぐ」なんて高等技は出来なくて当たり前なのです。
「ミックスボイスがすぐに手に入る」という触れ込みのメソッドもありますが、現実は中々難しいと思います。そもそも「ミックスする=融合する」と言い換えると、「分離→強化→融合」というボイトレ3ステップの最後に行なうべきものです。
現状の喉で実現可能な歌い方を考える
自分の喉の状態に合った歌しか歌えないとなると、これはストレスが溜まり楽しさも半減しますね。
やはり、少し背伸びした歌を歌いたいし、またその気概は持ってもらいたいものです。
では、ボイトレを始めたばかりの人が「少しだけ背伸びをして」歌うには、と問われたら、僕の意見は・・・
1.歌詞をはっきりと歌う
とにかく明確に歌詞を発音する事を大切にしてください。
つまり「母音を明確に」する気持ちを強く持つことです。
このことは、歌の「聴かれ方」と「歌い易さ」の両方に効果があります。
逆に、歌詞を曖昧に歌う事は「百害あって一利なし」です。
むしろ、難しいフレーズほど歌詞・母音を丁寧にゆっくり発音してください。
幼児の歌に感動する事があります。これの一つの要因は「一つ一つの言葉を丁寧に歌っている」からだと思います。
歌が走らないように
伴奏に比べて歌が「急いだ」印象にならないようにしましょう。
歌に限らず、どの楽器でも初心者とベテランの大きな違いは「走っているか、ゆったりとしているか」です。
少し歌の方が遅れて出ても良いくらいです。
たっぷりと伴奏を聴いて歌って下さい。
声区を行き来する
高い音程を歌うには下記のどれかの方法を使わねばなりません。
- むりやり地声を押し上げる
- 声区をまたぐ
- 声区を繋ぐ
消去法的に、1(不健康)と3(難易度が高すぎる)は使えないので、2の「声区をまたいで」歌うという事になります。
つまりシンプルに、高い音程の部分は「裏声」で歌うのです。
この方法が初心者には一番無理がなく、現実的な方法です。
もちろん、いつまでも声区をまたいで歌ってはおれませんが、心配しなくてもボイトレを進めていくと、地声と裏声は自然に繋がってきます。また声区融合の訓練も多数取り揃えております!
高い音域は「思い切った裏声」で歌う、という攻め方も一理ありです。つまり「裏声を太く」とか「地声と同じトーンの裏声を」とか、余計な事は考えずに高音を「典型的な裏声のトーン」で歌うのです。こうすることで声区をまたぐ、というある種の「欠点」、特徴的な表現という「長所」に変える事が出来ます。※地声と裏声のトーンをわざと極端に差をつけて歌う「強調対比」という表現手段です。
過剰な装飾テクニックを使わない
不自然なビブラート・無理をしたロングトーン等は、歌から自然さを奪います。
まだ出来ないうちから、こういう「自然発生的」な技巧は使わない方が無難です。
ビブラートをかける用意のない喉でかけたビブラートは、わざとらしく「くどい」印象しか残りません。
聴いている人には、「ああ、あのビブラートのくどい人ね!」という記憶にしか残りません。
いつでも「分相応」な表現こそが美しいのです。
まとめ
僕を含むボイトレ学習者が、ライブや発表会で歌うということは「未完成な喉でどのように歌うか?」という事が常についてまわります。
そしてそれは、その日に出演するほとんど全ての人にとって同じ事だと理解しましょう。(完全な喉を持っている人なんて、そうそういませんので)
そして憶することなく「分相応」なテクニックで歌った歌は、きっと美しく人の心に届くはずです。
また次の日から練習して、次の本番では「少しレベルアップした分相応さ」で歌う事を目指しましょう。
以上、ご精読ありがとうございました。