自分の声との、自分の喉との”接触回数”を増やす。歌声に向き合う時間がボイトレの未来を決める。

僕は前職で印刷の仕事をしていたのですが、その時の仲間(というか先輩ですね)がこんなことを言っていました。

「お客さんとは”接触回数”が大切だ。営業に行って一生懸命売込みをしてもすぐに売り上げに繋がることは少ない。やっぱりその人に何度も会って会話するうちにお互いの人間性を知るに至り、仕事を頂けるようになる」と、そんな意味合いの言葉でした。

僕はこの人が語ってくれた”接触回数”という表現が印象的で、今でもとてもよく覚えています。

なるほどな・・・と思います。僕たちは(印刷という業種は)特別な自分が発明したような物を売るわけではありません。こういうと何ですが、誰に印刷を依頼してもほとんど同じものが出来上がってきますので・・・「よし、この人なら信頼できそうだ。この人に印刷を依頼しよう」と思ってもらうためには僕たちは人間性を理解してもらう必要があり、そのためにはお客さんとの”接触回数”がものをいうという意味だったのです。

 

僕たちボイトレ学習者は、暇さえあれば自分の喉・声と向き合う必要があります。つまり喉や声との”接触回数”を増やしていかなければなりません。そりゃあ間違った練習をしてしまったり、遠回りしたりもあるとは思いますが、やっぱり結局”声について考える時間が長い”人が最後は成功するでしょう。

 

”接触回数”ねえ・・・そういえば僕がクラシックギターをやっていたころ、同じ教室に通う仲間にT君という人がおりました。彼はとても美しい音色を出す人で、普段は誰にでも厳しい僕たちの先生も「T君の音色は絶品だ」と唸っていました。

僕はある時、T君にその美しい音色の秘密について尋ねたことがあります。クラシックギターは右手の爪で弦を弾いて音を出すのですが、彼はその爪の形について散々悩んだ、と語ってくれました。爪をヤスリで磨いては切り、また別の形を試したり、爪が弦に当たる角度を変えてみたり・・・とにかく色々と試行錯誤を重ねた結果、彼の素晴らしい音色を獲得したのだということでした。

僕は自分自身のギター演奏は「音色にこだわり始めてから良くなった」と感じていました。良い音色と良いテクニック・・・一見バラバラに開発していかなければいけないように思いますが、実はそんなことはないのです。歌においてもまったく同じです。良い音質の声を求める事は、そのまま良い歌唱テクニックへと繋がります。ボイトレの場合特に「音色へのこだわりがテクニックを上げる」と、はっきり申し上げられます。

いうなればT君は自分の右手の爪との”接触回数”を増やし、飽きずに向き合った結果類まれな美音を得た、ということなのでしょう。

けれどT君や僕を教えてくれていた先生はさらにその上をいく”接触ぶり”でした!先生はより良い音色を求めるあまり、自分の右手の指と爪の粘土型をとったというのです!これには僕たち生徒は揃って絶句してしまいました。確かに、ギタリストにとって右手の指と爪は演奏のための最重要な道具だとはいえ・・・これほどまでの向き合い方は中々真似のできるものではありませんでした。

 

「美味しい」とお客さんを唸らせるお店、うどん屋さんでもラーメン屋さんでも、その後ろには提供する商品との絶え間ない”接触”があることでしょう。

そして、僕たちボイトレ学習者にとって自分の声に向き合うためのツールとしては、やっぱり”自分の声の録音”は欠かせないと思います。録音された自分の声を聴いて、良い意味で”粗さがし”をしていく。音程はどうか?音質は良いか?・・・重箱の隅をつつくように声との接触回数を重ねていくことが大切なのではないでしょうか。

歌いたい歌・目標に掲げている歌との”接触回数”もまた増やしたいものです。その曲を何度も何度も聴き込めば、節回し・音域による音色の違い等・・・最初は気付かなかったことがどんどん分かってくるはずです。

古い録音の歌を聴き込んでいくと、声区が分裂しそうになる様子や音程が微妙に外れる箇所なども分かるようになってきます。最近の録音はピッチを整え、音色や音量を一定に保つ編集処理がされていることが多いので、そういった発見も難しくなっていますが・・・

 

ボイストレーナーと生徒さんという観点からも、お互いの”接触回数”はとても大切だと感じます。一見不愛想な先生が悪い先生なわけではなく、またニコニコして愛想の良い先生が良い先生とは限りませんので・・・いや、少なくとも「またレッスンを受けたい」と、生徒さん側から”接触回数”を増やす気持ちになる先生は人間的魅力があるのでしょうね!

 

いろいろ脱線しながら”接触回数”というキーワードで書いてみました。

あっ!そういえば、このブログも僕と生徒さんとの”接触回数”を増やす事に起因してくれています。基本的には僕はこのホームページからしか生徒さんを募っていませんので、ほとんどの人はブログ記事を読んだ前提でレッスンを受けにきてくれます。テキストで書かれた文章とはいえ、生徒さんと僕の間の距離は初対面でも少しだけ近いと言えると思います。

特に最近の僕はもう、何でもブログに書いていますので・・・「ああ、この先生は銭湯と街並み散策が好きで、フースラーメソードをやっていてライブもまあまあやっている。サンプル音源によるとこんな歌唱力である」と。

はい、よくご存じで!うん、レッスン前にもうすでに充分な接触回数がありそうですね!

 

以上、ご精読ありがとうございました。

筆者のプロフィール、ボイトレへの考え

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