1人の歌手だけをコピーする事は声の固着を自ら作るようなもの。練習では他の声を出すことを意識する

僕はキャバンクラブ大阪というライブハウスで、ビートルズナンバーを歌う仕事に就いています。

僕自身の出演は週に2~3回ですが、他の日も含めてほぼ毎日4回ステージ、ビートルズナンバーばかりが演奏されています。

おまけにステージとステージの合間のBGMもビートルズ、店内の装飾もビートルズ、食べ物やドリンクにまでビートルズに関する名前が付いたものまであります。

実は、このお店で働く人のほとんどはプライベートでビートルズナンバーを聴く事を嫌がります。もちろん皆ビートルズを愛しているのですが・・・何しろ聴く頻度が尋常ではないのです!18時のオープンから23時半に最終ステージが終わるまで、ずっとビートルズです!そりゃあいくら好きでも「休みの日くらいは勘弁しくれよお」と思うのが普通です。僕も車の中でビートルズを聴く機会はほぼ無くなりました。言い換えればコックさんが家で料理したがらないのと同じようなものです。

演奏を終えると、お客さんから「毎日毎日同じ曲ばかり演奏していて飽きないのか?」と質問される時があります。そう思われても仕方がありませんね。特にLet It Beなどの有名曲を歌う回数は尋常ではありませんから。けれども不思議に「名曲」と言われている曲ほど、演奏していて飽きないのです。先の例に出したLet It Beは、出演した日は必ず歌うというくらいの超人気曲ですが、歌えば歌う程新しい発見があり楽しさが薄れません。やはり「名曲の名曲たる所以」は(安っぽい言い方になりますが)「色あせない魅力がある」という事なのだとしみじみ思います。

さらに、このお店での僕の役割は「ポールマッカートニー役」なので、基本的にはポールのボーカル曲しか歌いません。

ジョンレノン役の人はジョンの歌ばかりを、ジョージハリソンやリンゴスターにおいても同じです。

 

さて、歌手をコピーする事はボイストレーニングやボーカルトレーニングにおいてとても重要です。

その歌手の発声や歌唱テクニックの特徴を学ぶ、絶好の機会となるからです。

・・・ただし、それには「決して一人の歌手だけをコピーしないこと。必ず複数の歌手のコピーをすること」という条件がつきます。

ただ一人の歌手をコピーする事は、喉の生理的な固着や歌唱テクニックが限定されてしまう、というデメリットがあるからです。

しかし、キャバンクラブ大阪で歌っている僕たちは「ただ一人の歌手のコピーをする」ことを仕事にしているといえます。つまり「自ら喉の固着を生む仕事に就いている」ともいえると思います。

今回は上記の内容で書き進めてみたいと思います。

お付き合い下さい。


歌う音域や声のトーンが限定されてくる→喉の固着を生む

一人の歌手のコピーしかしないという事は「その歌手が得意とする音域ばかり練習する」という事になります。

しかもその歌手の得意とする歌声のトーンを真似る事にもなるので、喉の筋肉の使い方は明らかに限定されてきます。

これはボイストレーニングの前提として度々書いてきた「未使用の筋肉を鍛える」ことに矛盾します。

仮に、コピーの対象となる歌手は「特定の2オクターブの中の音域で、クリアーな声のトーンで歌っている」とします。しかしこの歌手は練習では「2オクターブを超えた音域で発声し、歪んだ声その他の色々なトーンの声も出している」と思います。ただ、僕たちの耳に届くのは「特定の2オクターブ、クリアーな声」という、その歌手独自の”スタイル”の中に収まった声だけです。つまり、一人の歌手だけをコピーする事は「対象となる歌手が出す声の”一部だけ”」を捉えるという事です。そうなると喉は、とても狭く限定的な動きしかできない事になります。

 

僕自身も「喉の固着」を感じた経験があります。

僕がお店で歌うようになってしばらくたってから、出せる音域が極端に狭くなってしまった時期がありました。

この時は「疲れているのかな」くらいにしか考えませんでしたが、今から考えると「喉が固着して、限定的な動きしか出来なくなっていた」のでしょう。

アマチュア時代には楽々歌えていた歌にも苦労するようになりました。練習すればするほど音域が狭くなっていく感覚すらありました。

喉は見えないので、「喉は固着する」という事を知識として知っていないと、後々大変な事になってしまいそうです。

ポールは、ビートルズメンバーの中で一番「声色を変化させる事」に秀でた人です。ポールはクリアーと歪み、喉頭の位置の高低などを巧みに操る「機能回復の進んだ喉」の持ち主です。そんなポールのコピーをする僕でさえ上記のような弊害を強く感じていたのです。逆に「唯一無二の歌声」を売り物にしている歌手”だけ”をコピーする事は、とても怖い事だと想像してしまいます。

 

まとめ

いかがだったでしょうか?

「模倣」はボイトレにとっても最も重要視される練習方法です。(レッスンで先生の声の後に発声する。これも立派な「模倣」です)

ただし「未使用の筋肉を鍛える」という、ボイトレの大前提の上に初めて成り立つものです。

今回の記事の例以外でも「特定の声だけを出す」事は、意識的に避けていくべきだと思います。

一流の歌手が、ベテランになって段々と声が出なくなりキーを下げて歌う事を余儀なくされる・・・これも「特定の声ばかり出し続ける」ことによる「喉の固着」が原因かもしれません。

その気になれば、どんな情報でもすぐに手に入る時代です。ネットの普及以前なら「あんな大物歌手が、僕たちの知っている情報を知らないはずはない」と言えたでしょうが、今の世の中はそうではありません。年収数十億の有名シンガーにもアマチュアのボイトレ学習者にも公平に、有益で正しい情報を得る機会があります。そして正しい情報を得る事は「探す努力」に負うところが大きいとも思います。

 

以上、ご精読ありがとうございました。

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