声・歌の場合、ピアノのように「ド」の鍵盤を押せば「ド」を鳴らしてくれる楽器ではないので、「正しい音程で歌う」という、いわば歌の根本みたいな事でもいつも悩みが発生します。
バイオリンをされる方なんかも、微妙なピッチ取りには苦労されるのかもしれませんが、これは選んだ楽器の宿命!諦めて早急に対処すべき問題かと思います。
そして、ピッチ取りに苦労する楽器(歌・フレットの無い弦楽器など)はそれだけ微妙な歌心・感情表現の幅が広いという事の裏返しでもありますので(ピアノを“歌わせる”ことは非常に困難だと言われています)、プラスにとらえて皆で頑張っていこうではありませんか!
しかし現実的には小手先の対処での解決は中々難しい問題です。
今回は僕自身の遠回りした経験も踏まえて、この誰しも持つ悩みに少しでもお役に立てればと思います。
お付き合いください。
僕のピッチ問題の沿革
さて、極めて簡単に僕自身のピッチ問題の沿革を記すと・・・
1(強いフラット傾向)→2(修正を試みる)→3(ややシャープ傾向)→4(修正を試みる)・・・
という事になります。
元来(強いフラット傾向)だった僕ですが、その事はお店で歌わせてもらうようになってから始めて気が付きました。それまでに録音して聞き返す作業を真面目にやってこなかった為、気が付きようがなかったのです。
全てのボーカリストの大前提として、まずは自身のピッチ問題に向き合う覚悟が必要です。
僕が行なってきた対処法~決してお奨めしません!
第一段階として自分のピッチの傾向を知るため、いつも必ず録音するようにしました。
これにより強いフラット傾向を自覚しました。非常に不愉快な作業ながら、とにかく重箱の隅をつつき続けました。
「この歌のこの音が低いから高く歌おう!」こんな感じで一音一音対処していました。
僕の回りのボーカリストでも最初は往々にしてフラット傾向の場合が多いように思います。
次は自分の傾向に合わせてシンプルに機械的に対処していきました。
つまり「フラット傾向なら少し高く、シャープ傾向なら少し低く」歌うようにしました。
心理的にはフラット傾向の人は低くなるのが怖くなり、シャープ傾向の人は上ずる事が怖くなると思います。
そして、フラット傾向だった僕は“シャープ傾向に歌ってしまう”という新たな問題を抱えました。
僕は「絶対フラットしてはいけないんだ!」と強く思ってピッチを常に高く取る悪い癖が新たについてしまったので、見事「いつもシャープ気味に歌う歌手」の完成です!
僕の中にはなぜか“フラットは最も恥ずかしい事!シャープした方がマシや!という変な考えがありました。もちろん馬鹿げた発想ですよね。音程を外している事には変わりないですから
そして、「反対方向に振れ過ぎてしまったピッチを正しい位置に戻す」ことをせねばならなくなりました。
この間に自分で考えたこんな方法でこの問題の解決を試みた事もありました。
用意する物・・・キーボード/ミニチューナー/付箋
キーボードの、自分の歌える音域(ファルセットを含めて3オクターブ程でしょうか)全ての鍵盤に付箋を貼ります→無秩序にどこかの鍵盤を弾きます(ラを弾いたなら当然チューナーは正しいラを指します)→その音と同じ音程を発声してみます→鍵盤で弾いた時と同じようにチューナーが正しい位置を指したなら「正解」ということで付箋を取り去ります。
チューナーの針が合わなかったら付箋は取らず、再度無秩序に他の鍵盤を弾きます・・・
こうやって、全ての付箋を取り去る事が出来るまで続けました。
「自分が正しいと思って発声している音が必ずしも正しくない」という事は強く自覚でき、歌う音域によっても音程が外れる傾向は違うという事もよく分かりました。
全部の付箋を取り去るには結構な時間とストレスがかかりました。
しかしながら、この方法は「一音一音の音程を無機的に」合わせていく作業でしかすぎません。
音の豊かさや響き、そんなものは完全に無視されたままです。まさに「片側からだけトンネルを掘る」行為だったと思います。
以上が僕が行なってきたピッチ問題に対する対処方です。
こんなに骨の折れる事をやって、とんでもなく時間がかかった割には僕のピッチ問題は現役続行中です!
しかし、最近になってようやく「正しい音程の正体」がつかめてきたように感じます。音程の問題は一つの方向からの対処で全て解決する事ではありません。母音・声区融合・喉頭の位置・・・様々な要因が絡み合って起こっている問題です。やはり長く取り組んでいくべきテーマだとは思います。
結論~ピッチ問題への正しい対処法
とにかくまずは、自分の音程が正確ではないことを自覚する事です。
よほど天然に上手い人でなければ、出そうとしている音程と出ている音程は多少ズレているものです。
そして「低いから高く歌い、高いから低く歌う」といった対処療法では、根本的な解決には至りません。抜本的な発声の問題を見直さないと、僕が陥ったように新たな問題を招くことにもなります。
結論としては手前味噌ながら、ボイストレーニングにより多くの問題は解決します。
例えば、毎度毎度「低く外れる」のは「発声上の問題でその音に届いていない」可能性が高いです。
これは音程の感覚がズレているのではなく発声器官が未熟な事が原因なので、正しい発声を身に付ける事によって治ります。
そして響かない音は低く聴こえてしまいます。
いつも決まった音が低いとなると、響かない苦手な母音があるせいかもしれません。
歌全体が下に引っ張られるように低い場合は、地声の力が裏声の力を上回り過ぎているのかもしれません。
喉頭の位置がいつも低すぎるために音程が低く聴こえてしまうこともあり得ます。
こんなふうに結果を分析して根拠ある練習を提案できれば、ボイトレこそが問題解決の決め手となります。
そして「真にフィットした音程」とは「チューナーの針が真ん中を指した」というような「機械的な正解」ではなく、もっと違う次元の「有機的な正解」の中にあります。
僕たちが聴いて感動する歌・憧れる歌手の「音程が正しい」という意味は「子音の明瞭さ・母音の美しさ・豊かな響き」といった「音楽的・有機的な正しさ」をも含んでいます。
もちろんフレーズとしても滑らかに繋がっていて凸凹がなく綺麗に流れているのですが、そのフレーズを作る一音一音が「音楽的・有機的に正しい」からこそ、全体が整合されていて安心感のある歌として聴こえてくるのだと思います。
そして、ボイストレーニングの目的とは発声を改善・強化することによって音程・響きなども含めた「真に正しい音」を発声できるようにする事です。
まとめ
音程・ピッチ問題に悩む方々は是非ボイトレされる事をお奨めします。
声や歌、さらには音楽の様々な問題は一つだけ解決して終わる、なんて事はありません。一つの大きな問題が解決されれば、周りの小さな問題も、また対岸の大きな問題も解決の方向へと向かいます。
発声が良くて音程が悪い人、音程が良くて発声が悪い人、どちらもあまりいないように思います。
以上、ご精読ありがとうございました。