皆さんも僕も、発表会やライブにカラオケ・・・ほとんどの場合はマイクを使用すると思います。
逆に、シンガーの声がマイクに乗って何の加工もされずに「生のまま」聴き手の耳に届く事は稀です。
マイクを使う場合、声はエコーやリバーブなどで「加工」される事がほとんどだと思います。
もちろん、それらの音響的な加工は、声をより心地よく聴き手に届けるためのものですが、ボイストレーニングの見地からはマイナス面もあると思います。
今回はそんな音響操作がもたらす弊害、生の声を聴く事によって喉のポテンシャルを引き出す事などについて書いていきたいと思います。
お付き合い下さい。
楽器の生の音とは
先輩のギタリストがこんな事を言っていました。
「最近はギター本来の音色をお客さんに届けたいと思っている。昔はたくさんのエフェクターを使って音を加工していたけれど、今は生の音そのものを聴いてもらう為にほとんどエフェクトをかけないようにしている」
ここでいう「生の音」とはアコースティックギターの音の事を指しているのではなく、たとえエレキギターであっても、その楽器が出す「素の音・加工されていない音」を聴いてもらいたいという意味です。
確かにアンプを通すとはいえ、エレキギターでも種類によって驚くほどの音質・響きの違いがあります。
そして先輩いわく「技術的にはエフェクトをかけないと音は伸びないし・ミスタッチは目立つ。生の音で演奏するのは本当は難しい挑戦なんだけれど」と言っていました。
確かに、ディレイやリバーブなどで加工された音はある意味「誤魔化しが効く」とも言えます。
これらのエフェクトはピッキングやタッチの不正確さ、悪い運指で音が繋がらない事などを覆い隠してくれます。
逆に、「伸びない音・ミスタッチすると目立ってしまう音」は演奏者の技術をとても進歩させてくれます。
エフェクトを使わない生の音は「良い音を出すスイートスポット」が極端に少なくなるので、物凄く繊細なタッチを要求されると思います。
そして、生の音で技術的にも表現的にも良い演奏ができ、お客さんが「おお!美しい音を出すギターだな!」と感じたなら、そのギターのポテンシャルを最大限に引き出せた、という事になるのでしょう。
音響操作の弊害
さて、この「楽器の生の音」「喉のポテンシャル」について、声に当てはめて考えてみます。
まず、やはり声も技術的にはリバーブ・ディレイといったエフェクトに随分助けられています。
カラオケでリバーブを切って歌ってみると途端に不安定に聴こえてしまう、という事もあるでしょう。
性能の良いマイクは響かない音も響かせてくれます。
あまり良くないマイクを使用すると響く音と響かない音との差が極端に出てしまい、整合性を欠いた歌として聴かれてしまいます。また、響かない音を強い息で押し出してしまい調子を崩す事も考えられます。
籠った暗い声質は、イコライザーで高い周波数を上げる事によって抜けのよい明るい音色に変えることが出来ます。
そして明るい声質に加工して歌う方が音程も合わせやすいと思います。
でも、言うまでもなくこれらのエフェクト・音響操作は声の技術的な進歩を阻みます。
音響操作に頼らず、欠点を直視する
リバーブやディレイはフレーズの語尾をあやふやにしてしまいます。
性能の良過ぎるマイクは、自分の声には母音や特定の音域によって響きに違いがある事を隠してしまいます。
そしてとても大切な事の一つである母音の課題に気付く事が遅れると思います。
イコライザーで音質を調整すると、自分の声に明るさが足りないという問題を解決しなくなります。
ただ、声の場合は音響状態が悪いと呼吸を強くしてしまったり、体を硬直させて歌ったりと悪癖の元になる事があるので、あまりにも厳しい環境を強いるのもまた問題だとは思いますが、常に過保護な環境で歌う事は長く声を操って行きたいと考えるならマイナスな事の方が多いように思います。
僕自身、何年か前まではイコライザーで音質を変えたりモニターを潤沢にしたりしていました。
今は出来るだけ音響技術に頼らないように心がけていますが、以前よりはるかに学びは多く、自分の声・歌の欠点部分を直視するようになりました。
音響技術に助けられていた時は隠れてしまっていた問題がたくさん見えてきました。
まとめ
出来る限り生の声で最良に聴かせるという意味では、僕自身の声のポテンシャルはまだ最大限に引き出されていません。
でもこれからも出来る限り僕自身の「生の音」と付き合って、噴出してくる色々な問題に向き合っていきたいと考えています。
あまりに苦行のように劣悪な環境を強いるのは声の健康上、好ましくはないと思いますが、カラオケでエコーを抑えめにする、バンド練習で声にイコライザーをかけないで歌ってみる等々に挑戦してみる事によって、技術的欠点がはっきりと現れ、また自身の声のポテンシャルの限界がまだまだ深いところにあることが分かり、更に今後のトレーニングの励みになる事と思います。
以上、ご精読ありがとうございました。