全然ボイトレに関係ない話から始めますが・・・
僕は大学時代~社会人になりたての頃、とても酷い肌荒れに悩まされた時期があります。ニキビのような湿疹のようなものが顔全体から首にかけてたくさん出来てしまい、熱を持ったように赤く腫れあがってしまいました。
元々ニキビの出来やすい体質だったのですが、不規則な生活やストレスで急激に悪化したのでしょうか・・・とにかく一ヵ所が治ると、また新たな箇所に湿疹ができるという繰り返しでした。
飲み水を替えたり、石鹸を替えたり、皮膚科に通ったりしましたが・・・治るまでにかなり時間がかかりました。
また塗り薬も、市販薬から皮膚科の処方薬までたくさん使いました。不思議なもので、新しい薬を使った直後は湿疹が急激にひいていくような感じがありました。「よし、この薬は最高だ!やっと完治できる!」と喜んだのも束の間、しばらくすると効果が薄れてくる。そしてまた新しい塗り薬を求めて薬局へ走る・・・そんな繰り返しだったように思います。
肌が薬に対する耐性を持つようになるのか?いや、もしかしたら「薬が効いて湿疹が治ってきている」ということ自体が錯覚だったのか?・・・理由はわかりませんが、とにかくそんな”ぬか喜び”の繰り返しだったと記憶しています。
そして、僕が色々なボイトレ方法を試してはその都度挫折し、ボイトレメソッドを渡り歩いていた頃もまさにそんな風に”ぬか喜び”の連続でした。
さて、今回の記事ではそんなボイトレメソッドを渡り歩いたこと、その都度味わった”ぬか喜び”について、その理由を推測していきたいと思います。
お付き合いください。
はっきりと記憶している”ぬか喜び”の経験
僕は「ミックスボイスを即席でこしらえる」や「腹式呼吸による大量の息の力で高音を歌う」といった発声法のレッスンを受け、その都度挫折してきました。
けれど、上のような発声を身に付けるために家で練習している時にも、実際にライブでその発声法の”約束事(声量を抑える、お腹に力を込める等)”に基づいて歌っている時にも「よし、この発声法は最高だ!やっと本物に出会った!」と、とても喜んでいました。あまりの嬉しさにミュージシャン仲間に「僕、やっと正しい方法に辿りついたぜ!」と吹聴してまわったほどです!
けれど、その喜びはいつも長続きしません。日に日に声の不自由さは増していき、いつも結局は”やる前の方がまだマシ”という状態にまでなってしまいます。
まさに、絵に描いたような「ぬか喜び」そのものです!
では、なぜそんな”ぬか喜び”を味わう事になったのでしょうか?
そもそも、本当に一時は上手くいっていたのでしょうか?
「悪癖が取り除かれる」「新しい発声の感覚は新鮮」なので、勘違いします
例えば、大声を張り上げて高音を出していた人が「これではいかん!」ということで、「声量を下げて、とにかく地声と裏声の音域をスムーズに繋ぐことだけを考えたボイトレ」をやったとします。
レッスンでは「とにかく息の量を小さくコントロールして!」「声量は”悪”だ!抑えて抑えて!」とアドバイスされるでしょう。また「どの音域でも均一な息の強さ」を癖づけるためにリップロールを日々のボイトレに取り入れるでしょう。
さあ、いざ歌ってみます!声量を抑えて、息の量を繊細にコントロールして・・・今までの”張り上げ”発声の時とは違う、声が低音から高音まで一本に繋がった”ミックスボイス”の感覚を味わう事が出来るでしょう。
ついに本物に巡り合ったのです!!!
・・・けれど、それはあくまでも「睡眠も充分!体力も有り余っている!」「音響もバッチリ!」という好条件の元で、たまたま上手くいったにすぎません。
体調の悪い時、マイクの性能が悪く自分の声が聴こえにくい状況で歌ったときには、息のコントロールもままならず、おまけに声量も上がってしまい・・・結局、不自由の塊のような感覚に陥りそれこそ「前の方がマシ」ということになりかねません。
つまり彼は、一時的に「以前から身に付けてしまっている発声の悪癖=張り上げ」が取り除かれたため一見上手くいったように感じますが、結局はしっかりと融合された声からは程遠い”危ういミックスボイス”で歌っているため、ちょっとした状況の変化でたちまち声に破綻が起こるのです。
また単純に「新しい発声の感覚を新鮮に感じている」ということもあると思います。この人の場合だと、今まで味わったことのない”低音から高音まで一本に繋がっている”という感覚を始めて味わうのです。それは、とても新鮮な経験でしょう!
「音質的な新鮮さ」も勘違いの元です
彼は、そもそもは「地声を張り上げて」歌っていたわけですから、その声質は”厚くて重い”ものであったはずです。(よく言えば”ドラマチックな声”ともいえます)
そんな彼が、声量を抑えて繋いでいく発声をすると裏声の成分をたくさん声に加えていくことになるので、声は”薄く軽い”方向にシフトしてくるでしょう。換声点の位置は何音も下がり、かなり低い音域から”ミックスボイス的な”柔らかい声質で歌うことになります。(例えるなら”リリカルな声”寄りになるでしょう)
ずっと張り上げて歌ってきた彼にとって自分自身のそのソフトな歌声は、とても新鮮な”新しい自分の声”として耳に入ってくるはずです。
彼が、この新しいボイトレ方法に対して「手応え」を感じても、無理のないことだと思います!
喉の機能的には”リリカルな声”は安全ではあります。けれどここで問題なのは、新しいボイトレ方法は、彼が元々もっていた”ドラマチックさ”を失わせてしまうものだということです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
またいつもの決まり文句になりますが「正しいボイトレに即効性はない」という結論になります。
間違った方法でも、やった直後には(勘違いも含めて)効果を感じるものです。
いや「即効性のあるボイトレは危険」であるとさえ言えるかもしれません。その代償に失ってしまうものがあるという事なのですから・・・
以上、ご精読ありがとうございました。