ヘタウマが生きる素晴らしいジャンル ~ロック~

いうまでもなく、ボイストレーニングとは純粋に「生理的に正しい発声」を求めていくものです。

例えば、バンドのボーカリストで、これからボイトレを始めようとする人がいたとします。

その人はおそらく「自分の発声をより良く直していけば、バンドの音楽は更に魅力を増し、より良い方向へと向かう」と考えているのでしょう。

事実、多くの場合はその通りだと思います。

それは音楽が「正しい音は、正しいフォームから作られる」「(生理的に)正しい音で歌われた歌は、美しい」という基本概念を持っているからです。

この概念なくして、ボイストレーニングを始めとする全ての楽器の習得の為の訓練やレッスンは成り立ちません。

「生理的に正しい音は美しい」と信じているから、学習者は皆「生理的に正しい音」を目指して「正しいフォーム」を練習するのです。

しかし、世の中には例外があります。

一部の(特に古い時代の)ロックです。

 今回は「上手いだけじゃだめ、いやむしろ上手い事が足かせになってしまう事もあり得る、不思議なジャンル=ロック」について、色々書いてみたいと思います。

お付き合い下さい。


 

「技術的に上手い」クラシックのミュージシャン

技術的に決して上手なわけではないけれど、なぜか魅力があることを「ヘタウマ」などといいます。

クラシックミュージシャンを「ヘタウマ」とは、あまりいいません。

元々「ヘタウマ」なんていう言葉自体が、例えばクラシックのようにアカデミックな教育が確立されたジャンルの演奏家や歌手には使えない・あり得ない言葉だと思います。

クラシックミュージシャンの中にも「味のある」演奏をするタイプはたくさんいますが、彼らとて充分な音楽的素養を持ち、アマチュアからは考えられない程の「超絶の」テクニックを持つことがほとんどです。

クラシックミュージシャンにとって「一定レベルのテクニック」は演奏家としての「大前提」であり、そのテクニックの中で奥深い表現に人生を費やすか、その更に上のテクニックを持つに至るかは、個々の「スタイル」の違いでもあるといえます。

簡単にいうと、クラシックミュージシャンの中には、アマチュアからみて「技術的に下手な」演奏家はいません。

 

 

ロックのレジェンド達にはヘタウマが多い

一方ロックの世界には「ヘタウマ」と呼ばれるミュージシャンがたくさん存在します。

最近はロックの中にもアカデミックな音楽教育(生理的・科学的根拠のあるボイストレーニングもその一つです)が生まれているように思いますが、50年前まではロック歌手で例えばボイストレーニングやギターのレッスン等を受けていた人はごくわずかだったと思います。

ほとんどが「天然に上手い」か「独学で何となく上手くなった」人たちばかりだったのだと思います。

数十年という年月が経って、彼らを客観的・生理的に分析できる術が生まれ、その発声法が研究された結果「ロック歌手の〇〇のような発声法とは?」のように語られるようになったのであって、彼らは喉の仕組みや発声のメカニズムなど、これっぽっちも気に留めていなかったでしょう。

そして、かつてのロックのレジェンド達には、「技術的に決して完璧ではないけれど、なぜか魅力がある」タイプの歌手もたくさんいました。

そして不思議な事に、彼らは「技術的に完璧な歌手」と比較しても引けを取らないどころか、はるかに上回る魅力を発散している例も数多くあります。

このことはロックが「アマチュア派生の音楽」である事が大きな要因でしょう。音楽の勉強を何もしてこなかった人たちが、見様見真似でギターをかき鳴らした事が、ロックの誕生と言われています。つまりロックは「技術を持たない人たちの音楽」として始まったのです。

 

「技術が邪魔になる」事さえあり得る

クラシックミュージシャンで「技術が邪魔になって」魅力がなくなっている人がはたしているでしょうか?

一方、ロックミュージシャンには「技術の無い事が魅力」となっている人たちがたくさんいます。

こういう人たちは「技術が無くても魅力がある」のではないのです。

むしろ「技術がないから魅力がある」のです。

60年代のイギリスのバンド「kinks」のリードシンガー・レイデイビスは技術のない、いわゆる下手な歌手だと言われています。確かに、彼の音域はアマチュアレベルでみてもとても狭く、音程も不安定です。では試しに彼の曲のカバーバージョンをyoutubeなどで検索してみて下さい。不思議な事に「全く魅力がない」のです。カバーしている歌手達の全ては、おそらくレイデイビスより何倍も上手く、生理的にも正しい発声をしているにも関わらず、です。つまりkinksの音楽はレイデイビスの「下手な歌」も魅力の一つなのです。彼らの音楽には「技術が邪魔になる」のです。

 

今回はロックというジャンルの不思議な魅力について書いてみました。

ロック史上のレジェンド歌手達に「完璧な技術」が魅力となっている人が少ない事に、今更ながら驚きを感じます。

日本の歌謡史においても、同じ事が言えるかもしれません。浅丘ルリ子さんは生理的に不健康な発声の代名詞的な、細かく震える声(いわゆる「トレモロ声」)を自身の歌の魅力としています。

 

誰からも音楽を習わなかった」ロックのレジェンド達は、その技術的欠点を「誰からも治されませんでした」。これだけ情報が溢れている今の時代では難しい事かもしれません。

とはいえ、僕たちが「ヘタウマ」を目指して良いという事ではありません。

ボイストレーニングによって得た「生理的に正しい声」が生きる音楽を歌う事を目標にして、皆さん頑張っているのですから。

もちろん、僕もその一人です。

引き続き、正しい発声・喉の機能回復を目指しましょう!

 

以上、ご精読ありがとうございました。

筆者のプロフィール、ボイトレへの考え

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