ヒット曲を何曲も連発するようなシンガーは、皆それぞれ独自の歌唱テクニックと唯一無二の表現力を持っています。
彼らは、となりの部屋のテレビから漏れてくる歌声を聴いただけで「あっ!○○だ」と、すぐに誰だか分かるくらいの強烈な歌声の個性を得るために、弛まぬ努力を続けたのだと思います。
もちろん、そのシンガーの音楽的な志向やバックボーンも個性の形成に大きな影響を与えるでしょう。
この記事は、「歌唱テクニック」「表現力」「音楽的志向」・・・これらをキーワードに西城秀樹さんの歌声について書いてみたいと思います。
お付き合い下さい。
西城秀樹さんの歌唱テクニック
西城秀樹さんは、ものまねの題材としてよく取り上げられる人だったと思います。
僕たち(1970年代生まれ)の世代では、カレーのコマーシャルが有名でした。
あの頃、少しおちゃらけキャラの男の子が西城秀樹さんの声真似で「ハウスバーモントカレーだよー♪」と、皆を笑わせていました。
西城秀樹さんは、それほど「ものまねし易い、特徴的な」声のシンガーだったという事です。
ボイストレーニングの見地からみた時、西城さんの歌声の特徴は「泣き節」と「歪み声のシャウト」に代表されます。
有名なヒット曲「傷だらけのローラ」を改めて聴くと、見事なまでの「泣き節」と「歪み声のシャウト」の宝庫といえます。
※動画が削除されている時は「傷だらけのローラ」で検索ください。
泣き節
「傷だらけのローラ」の場合、「泣き節を効果的に入れていく」というよりは「全編泣き節のオンパレード」といった感じです。
特に「ローラ~♪」の部分は、思いっきり”泣いて”います。
そして、音程が高くなればなるほど、”強く泣いて”います。
「泣き節」を入れる事で、裏声と地声のミックス状態が促進されるので高音を歌うにはとても効果的なテクニックです。
「泣き節を入れると高音を出しやすくなる」という事を知識として知っていたとしても、喉が思う通りに働いてくれない事には歌に取り入れることは出来ません。西城さんはとても優れた「喉の機能」を持っていたのだと思います。
ウォーミングアップに「泣き節」を取り入れる事も効果的です。僕は本番でも「泣き節」を入れて歌う事があります。ただし「どうしても調子が悪い時限定」のルールを自分で作っています。何故ならビートルズナンバーに泣き節は(美意識的なマナーとして)似合わないと思っているからです。それでも「どうしても今日は高音が歌えない!」という時は「泣き節」を積極的に入れていきます。そうする事でずいぶん歌い易くはなります。「泣き節」は僕にとっては、いわば「禁断の最終手段」です!
歪み声のシャウト
「傷だらけのローラ」の西城さんの歌声はクリアーな声ではありません。
かすれたように少し濁った・・・彼の歌声のもう一つの特徴である「歪み声のシャウト」を効かせています。
「歪み声」が、実は健康的な発声である事は過去の記事でも書いてきましたが、こういうロック的な声をアイドルシンガーだった西城秀樹さんは巧みに自分のものにしていたんですね!
僕は「自分の声が僅かに歪んでいること」を好調のバロメーターとしています。あまりにキンキンして張りのある声しか出ないのは、喉や他の部位が緊張している証拠です。この「歪み声」の感覚が身体に染み込んでくると、慣れない場所で歌う時などでの精神的な悪い影響を受けにくくなります。
西城秀樹さんの表現力
「傷だらけのローラ」の歌詞を見ると、とても情熱的な内容です。
「今君を救うのは目の前の僕だけさ 生命も心も この愛捧げる」・・・歌詞の世界と西城秀樹さんの歌唱テクニック(泣き節・歪み声のシャウト)がガッチリと結びついて、この曲の名歌唱が生まれたのでしょう。
西城さんは「傷だらけのローラ」の歌詞の世界を表現する事は、それほど難しくなかったのではないでしょうか?
それほど、「傷だらけのローラ」は西城さんの得意とする表現にピッタリとフィットした曲だと思います。
この曲は書いた作曲家と作詞家は、西城さんの歌唱テクニックの特徴に完璧にフィットする曲を提供できたのでしょう。やはりこれだけの大ヒット曲が生まれる背景には、西城さんを始めとする多くの人の才能が集結されているのだと思います。
西城秀樹さんの音楽的志向
西城さんが最初にファンになったアーティストは、イギリスのギタリスト・ジェフベックだったそうです。
その後も、ローリングストーンズやレッドツェッペリン、ビートルズなどの洋楽がお好みだったようです。
西城さんの(おそらく当時の歌謡界では珍しかった)ロック的な歌唱テクニックは、洋楽志向であった音楽的バックボーンに由来があるのかもしれません。
英米のロック歌手は、皆「歪み声」の名手です。どの歌手の声からも、大なり小なりの「歪み成分」を聴く事が出来ます。僕も洋楽志向のとても強いシンガーですが、ボイストレーニングについて勉強して「歪み声」のメカニズムを知るまではずっとクリアーな声で歌っていました。やはり「僕の声はこんな声!あんな歪んだ声なんか出せるはずがない!」と思い込んでいました。こういった「声は天性の物で変えられない」という誤った先入観が世間的には一般的です。実際には声のトーンは変える事が可能です。誤った先入観から、自分の声の可能性を消し去ってしまう事は本当にもったいない事だと思います。
まとめ
西城秀樹さんは、その高い喉の機能で特徴的な歌唱テクニック(泣き節や歪み声のシャウト)を操る、名シンガーでした。
しかもその歌唱テクニックは、ボイトレの見地からも健康的・合理的で、しかも歌詞の世界を表現する最大のポイントにもなっていました。
そしてその個性的な歌声は、西城さんの音楽的バックボーンから導き出されたものだったのでしょう。
以上、ご精読ありがとうございました。