声が出ない時は、歌えていた時の自分を模倣する。イメトレを軽視してはいけない

僕は、自分自身がボーカリストだから言うのではありませんが、喉ほど、難しく厄介な楽器はないと思っています。

寝不足や飲酒、精神状態の影響をもろに受けやすく、好不調の波がとても大きい楽器です。

声を扱う人は、他の楽器にはない特別な慎重さをもって、自分の楽器のケアにあたらなくてはいけません。

とはいえ、実際の歌の現場では皆少し「過保護すぎる」と思うことも多いです。かつての僕がそうだったように、ずっとマスクを着用し、飴を舐め、水分を摂り続ける・・・そこまでの必要はないように思います。(また、これらに声を保護する強力な力があるとは思えません。いや、ほとんど無いでしょう) そこまでしないと歌えないのなら、それは明らかに喉の力不足(ボイトレ不足)です。”歌うように作られている人間”は、本来はむしろ”何の準備もなしに”歌えるはずです。

さて先日あるミュージシャン仲間が、ライブ直前の楽屋で”声が出ない”ことに悩んでいました。聞くと、一週間前に酷い風邪をひいて、その後上手く歌うことが出来なくなった、とのこと。

僕と彼はその日のライブで一緒に歌わなければならなかったので、僕にとっても他人ごとではありません、本番前の楽屋で二人で色々試してみました。結果、彼は見事にその日一日を歌い終えることが出来ました。(彼は、この世界でのキャリアが長いベテランミュージシャンです。ライブ直前での追い込みは”さすが”の一言でした!)

そんな彼との楽屋でのウォーミングアップは、僕にとっても良い勉強になりました!

今回は、その時の経験を元に、ライブ直前にも関わらず”声が出ない!”と焦っているボーカリストに向けた記事となります。

お付き合いください。


風邪の後は喉に”おかしな癖”がついてしまってる。

僕もかつてはよく風邪をひいていて、一度喉の調子を崩すと長引くことが多かったです。常に歌っていたためか、必ず酷い咳を伴う風邪でした。そして、風邪が治っても喉の調子はずっと悪いままで、それこそ1か月も調子が出ないなんてことがザラにありました。(今は、ほとんど風邪をひきませんし、万が一風邪をひいてもある程度は歌えるようになりました)

あの頃の僕は、なぜ声が出ない原因である風邪がすっかり治っても、中々調子が戻らなかったのでしょうか?

それは、一時的に”悪いフォーム”が癖づいてしまっていたからです。

風邪をひいている時に歌うと、どうしても地声を持ち上げ大声で乗り切ろうとしてしまいます。(喉が言う事を聞いてくれないので、力任せな発声になりがちです)また「咳が出ているなあ、きっと声出ないだろうな」という心理的なものも大きいでしょう。(”マイナスのメンタルコンセプト”とでも言えますか・・・喉は”声が出ない”方向に調整されてしまいます。)

そして結局、原因である風邪はすっかりなおっているのに、風邪による喉の不自由さから身に付いてしまった”悪いフォーム”をそのまま引きずって歌ってしまうことになります。

 

「声が出ていた時」「ちゃんと歌えていた時」のフォームを思い出す。

野球のバッターが「スランプの時は、自分自身の調子が良かった頃のフォームのビデオを見て研究する」という話を聞いたことはないでしょうか?

つまり「自分自身の好調時のフォームを模倣する」ことで、スランプを抜け出そうとする試みです。

冒頭で書いた仲間のミュージシャンともそんな話をして、彼のウォーミングアップを聴きながら二人で考えて色々やってみました。

幸い彼はその時でも「裏声と地声を分けて出す事」ができていました。つまり「声の材料」である二つの声が出せていました。あとはその二つを繋ぐことが出来る、もしくはスムーズに行き来できれば歌う事は可能なのです。

 

ちゃんと歌えていた時の表現・歌いまわしには”声にとっての機能的な正解”が詰まっている。

フォームを思い出すといっても、野球のバッターのように喉は”目で見える”ようなものではないので、結局は「出てきた声」から喉の中身を調整することになります。(これはボイトレ全般に渡っての基本的な考え方です)

彼が普段からやっていた”歌唱表現”(しゃくりや泣き節)の中には、地声と裏声の行き来をスムーズにする要素がたっぷりと詰まっています。(僕は彼と何度も一緒に歌ったことがあるので「彼の歌い方の特徴」をよく記憶していました。案外、自分よりも周りの人の方が特徴をよく理解しているものかもしれません)

それを思い出しながら、彼は「調子の良かった自分自身の歌声」を模倣しながら、段々と調子を取り戻していきました。

自分自身の歌唱表現的な”癖”を思い出すために、「調子の良かった自分自身の歌声」の音源を持ち歩くのも一手かもしれません。また、いつも一緒に演奏しているメンバーはあなたの歌の”癖”をよく理解しているでしょう。例えば、バンドメンバーにあなたの歌い方の物真似をしてもらうとか・・・彼らの意見は参考になるでしょう。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?

上手く行かない時は、調子が良かった時の自分を思い出してみる・・・ボイトレ以外の分野でも必ず行なわれていることではないでしょうか?

そうすることで、実際に喉の中で起こるはずの”良い動き”を呼び覚ますことができ、またメンタル面でも”歌えている時の精神状態”へと戻っていくことができます。

今回取り上げた内容は「イメージトレーニング」という言い方もでき、ともすれば”実態のないもの”として軽視しがちですが、案外ボイトレの根幹はそういうところにこそあります。

レッスンやライブの現場に足を運べば運ぶほど、”メンタル面”の作用が喉に及ぼす影響が想像以上に大きいことに驚くばかりです。

 

以上、ご精読ありがとうございました。

PAGE TOP