ボイトレのレッスン現場で、歌を歌って指導をされることはよくあります。
事実、僕のレッスンでも(希望があれば)歌を歌ってもらって、それに対するアドバイスという形で進めていく事もあります。
本来のボイストレーニングとは「喉の機能回復」ただ一つの目的をもって進めるべきものです。「喉の機能回復」が完全になれば、どんな曲でも歌えるようになり、また素晴らしい話し声も手に入り、物真似さえ上手になる。そんな「喉で出来る全ての事」を可能にするために行なうのが本当のボイストレーニングです。
ボイストレーニングに「歌声改善」「話し声改善」といった区分けはありません。これは当たり前の事だと思います。全て「喉」が行なっている事なのですから。
そんな、ボイトレの中での「歌を歌うレッスン」について、色々と書いてみたいと思います。
お付き合い下さい。
目次
ボイトレレッスンの中では「上手く歌おう」としないでください
発声練習では上手くいったのに、実際に歌を歌ってもらうと、声が裏返ったり、スタミナがなかったり、音程が外れる箇所があったり・・・レッスンで歌を聴かせてもらうと、色々な事がわかります。
生徒さんは、当然のことながら「上手く歌おう」と躍起になってくれますが、実はボイストレーナー側からの立場では「声の破綻の状態」を確かめたい一心で聴かせてもらっています。
むしろ「次、失敗するはずだ!ああやっぱり裏返った!」という風に聴いているといえば、意地悪に聴こえるでしょうか?(笑)
けれども、失敗してくれた方が原因が明らかになるというものです。レッスンで失敗する事は何も恥ずかしい事ではなく、自分の声に足りない要素を確認するために歌を聴いてもらう、練習メニューを見直したりするサポートの材料にするために歌う、と考えた方が良いと思います。
歌の中での声の破綻は、大抵「予想通り」の形で現れます。弱いアンザッツや母音がある事、声区融合が甘い事・・・発声練習の時に現れていた事が、そのまま歌の中でも現れます。
逆に「歌ってみて、声の破綻が現れてラッキー」だと思ってはいかがでしょうか?
ボイストレーニングでは「歌の細部の調整」を行ないません
歌う事によって現れた「声の破綻」の一つ一つをくまなくチェックして治していく事はとても非合理的であり、ボイストレーニングのレッスンでは通常は必要ありません。
「外れた音程を一音一音治す」「声量を抑えて裏返りをなくす」・・・そんな細かい調整をする事で、その歌は何とか歌えるようになったとしても、また次の歌で同じような躓きを経験する事になります。
大切な事は「全ては、喉の機能不全のせいだ」と割り切る事です。
「地道に声区分離をする」「毎日アンザッツをやる」・・・こういった基本的な練習だけが「どんな曲でも歌えること」を可能にします。
一つ一つに対処していくのではなく「全てが万事うまくいく喉」へと導く事が本当のボイストレーニングです。
例外はあります・・・本番が迫っている時
「来月にライブがある」「発表会まで2週間だ!」・・・こんな差し迫った場合は「喉の機能回復」云々とは言っていられない状況にあります。
こういう時期には細部の調整が必要になることはやむを得ないと思います。
「あまり声量を出さないように」「母音を少し曖昧に」、時には「その音をもう少し高く歌って下さい」というような、より具体的な細かいアドバイスをしていく事になります。(こういった細かい操作も、ある程度機能回復した喉でないと出来ないことではありますが・・・)
皆さんもボイトレ生活の節目節目で発表の場を設けた方が良いと思います。「近い目標」がある事はモチベーションアップにもなると思います。「喉が完全に機能回復してから歌おう」などと考えると、6~10年先まで歌う機会を作らないことになってしまいます!
本番が終わったら、また純粋なボイストレーニングへと帰りましょう
上記のように、本番前にはある程度(ボイトレ的には)妥協したレッスンとなる事は仕方がないかもしれません。
ただし、本番が終わったらまた本来のボイストレーニングへと戻っていくので、それからは「上手く歌おう」としない方が良いでしょう。
レッスンではどんどん失敗して、足りない練習をたくさんやっていく事が大切でしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
ボイトレに限らず、レッスンの場ではたくさん失敗した方が学びは多いものです。
いくら先生の前とはいえ、人前で声が裏返ったりする事は恥ずかしいものですが、今の喉の機能状態ありのままで歌う方が良いと思います。
「音程を外す」「声が裏返る」などの細かい失敗には必ず原因がありますが、全ての原因は「喉の機能の未熟さ」です。(元も子もない言い方ではありますが・・・)
一曲一曲仕上げていくというような非効率的な事はせずに、「どんな曲でも歌える喉」を目標にボイトレを頑張っていただきたく思います。
以上、ご精読ありがとうございました。