ボイストレーニングを始めようとする人の目的で、一番多いのは「歌が上手くなりたい」です。
それよりはかなり少ない数ですが「話し声を変えたい」という要望も、もちろんあります。
何人かの人から「話し声が通らないのが悩みなんです」「歌声だけでなく、話し声も改善できますか?」との質問を受けました。
これらの「話し声」に関するコンプレックス、毎日絶えず付いて回る「日常会話」での問題なので、人によっては「歌が上手くなりたい」以上に早急な改善を求められるのも当然だと思います。
今回は、「話し声」について書いてみたいと思います。
お付き合い下さい。
「歌声」と「話し声」の違い
普通に考えると「歌うこと」は非日常的で、「話すこと」は日常的な行為。
「歌うこと」は難しく練習が必要だけれども「話すこと」は簡単で誰でも自然に行っている。そんなところでしょうか?
でも、人間の生物としての歴史上は果たしてそうなのでしょうか?・・・
という切り口でこのテーマを進めるとあまりにも「ボイトレブログ」から外れていってしまうので、以前のブログ(僕たちは皆「歌を忘れたカナリア」なのか?)を参照頂くと幸いです。
おそらく人間は「話すより先に歌っていた・叫んでいた」のです。
”原始の時代、言葉をまだ持たず自由に歌っていた人類は、やがて言葉を獲得し知性の制御でその言葉を・・・”
なんていう科学番組みたいな事よりも、ボイトレする上で「俺は絶対歌えるんだ!歌うことは難しくないんだ!人間は元来歌える生き物なんだ!」という思考を頭のすみっこに少し置いてみる事は大事なんじゃないかなと思います。
古いイタリアのボイストレーニングでは喉の完成に6年~10年(!)かかると言われています。
こういう希望に満ちた話は、これから長い航海となるボイトレ生活での精神衛生上もよろしいです。
少し話は逸れましたが、人間を生物レベルでみると「歌うこと」と「話すこと」は同じ「発声器官」を使って行われるのですからリンクしてきて当然です。
「歌うこと」にトレーニングが必要なら「話すこと」にもトレーニングが必要です。
そして、それは何も「歌声」「話し声」独自の練習メニューがあるわけではございません。
「話すように歌う音楽」や「歌うように話す語り」があるように、「歌と会話」はそれぞれに独立した分野と考える必要はありません。シンプルに一括りの「声」として捉えるべきです。厳密に考えると、会話にも「音階」が存在します。
「歌声の改善」が先か「話し声の改善」が先か
これはそれぞれ同時進行で改善していきます。
正しいボイストレーニングには「高い声の練習」とか「ミックスボイスの練習」のような特定の声質に偏った練習メニュー、また「ロックのボイトレ」「オペラのボイトレ」といったジャンル別のメニューもありません。
目指すものはあくまで「自由な喉」なので、喉の機能をトータル的に改善しいくことのみが唯一のゴールとなります。
そして「歌声」も「話し声」も、はたまた「叫び声」も「唸り声」も同等に改善していかなければなりません。
以前のブログ(ボイトレの基本その1 トータルな改善)を参照。
ボイトレを始めて数か月後には、話し声にはかなり顕著な変化が出ます。
例えば声が重たく暗い人は声に明るさを加える為の筋肉が衰弱しているので、そこを強化することで声が明るく変化してくる・・・そんな感じです。
むしろ「歌が上手くなるためにボイトレしてたら話し声まで変わってきちゃってさあ」というイメージです。
「歌声」と「話し声」、相乗効果を狙う
より早く効率的な声の変化を得たいとなれば、「歌声」と「話し声」は双方からアプローチしていくと良いです。
特に話す機会の方が歌う機会より圧倒的に多いので、「話し声」から「歌声」へのアプローチは充分に価値があります。
例えばママさんコーラスで歌う女の人をイメージしてください。
ジャンルのマナー的にも世襲的にもほとんどが「裏声・ファルセット」主体の声です。
また女の人で電話に出る時によそ行きの声で「もしもし○○です」という人も「裏声・ファルセット」です。
こんなタイプの声の人は日常会話の中で出来るだけ純粋な地声(NHK 体操のお姉さん的な)で話すようにすると歌声も大きく違ってきます。
また歌声が重く暗い男性で、高い音域で声を細く小さくする事が出来ない人は、思い切って少しの期間日常会話を裏声(それも出来るだけ息が漏れたような弱弱しい裏声)中心に切り替えてみると良いです。
女性男性ともにそれぞれ声のマナーというものが先入観的にあるので勇気のいる事だとは思いますが、「日常会話」という日々膨大に累積する「負の加算」みたいなものを取り除くには有効だと思います。
以前のブログ(「ボイトレにはスタートダッシュが肝心!」な理由とは?)参照。
同じ「声」である以上、「歌声」と「話し声」は分けて考えるべきではありません。
日々の生活の中での声を少し意識するだけで、積もり積もった大きな成果となる事も充分あり得ます。
以上、ご精読ありがとうございました。