トンネルは両方から掘る ~ボイトレに必要な「憧れ」からのアプローチ~

この記事は2018年3月13日に公開したものを2018年6月3日に追記・再編集したものです。

僕は30代の頃、ある先生にギターを教わっていたのですが、その先生からは、その後の僕の音楽人生に大きな方向性を与える指導をたくさんして頂きました。

中でもとても印象に残っている言葉は

トンネルは両方から掘りなさい」でした。

この言葉を色々なシチュエーションで常に引き合いに出されていました。

僕は、このギターの先生から、音楽を学ぶためには「手にしている楽器の違いによる隔たりはない」事を強く教わりました。ギター・ピアノ・ドラム、そして歌・・・目指すものは、どの楽器でも同じです。全ての根っこには「良い音楽」のみが横たわっています。

今回はこのような記事内容となります。

お付き合い下さい。


最初の「憧れ」を忘れてしまう

ギターの有名曲「アルハンブラの思い出」を弾けるようになる事は当時の僕の最大の目標でした。

というか僕はこの曲を弾きたいがためにギターを始めたのです。

ただ「アルハンブラの思い出」は「トレモロ奏法」という右手の3本指を使って細かく音を繋げていく特殊技巧が全編に使われていて、当時の僕はそれがどうしても出来ませんでした。

その時に先生から「トンネルの真ん中にある“アルハンブラの思い出”を君は片側からだけ掘って取りにいこうとしてるだろ?それではいつまで経っても弾けないぞ。反対側からも掘ってごらんよ。反対側とは君が最初にこの曲を聴いた時の感動・憧れだ!そういう感情をもう一度思い出せ!」とアドバイス頂きました。

確かに、最初にこの曲をテレビで聞いた時は「なんという曲だ!僕はこれを弾きたい!」と子供のように感動したものです。

でも今や僕は「トレモロ奏法」の機械的な練習ばかりに気を取られていました。

そしてついに「トレモロ奏法を攻略する事」そのものが目標になってしまっていました。

だから何度やってもダメだったんですね。非音楽的で流れの無い、機械的な練習ばかりをしていたのですから。

そこで頭を切り替えて、それまでの練習である程度身についていた未完成なトレモロ奏法で、出来るだけ音楽的に「最初にこの曲を聞いた時の感動を頭の中で甦らせながら」曲の冒頭を弾いてみると、びっくりするくらい躊躇なくスムーズに曲を弾き切る事が出来ました。まるで補助輪を外した自転車に、ある時急にスーっと乗れてしまうように・・・。

 

出口からもアプローチする

そして今、この「トンネルは両方から掘りなさい」という言葉は僕自身の歌の練習にも大きな影響を与えています。

ボイトレにおいて、トンネルの右側を機械的な練習(裏声を強くする事、地声を鍛える事、声量を上げていく事、裏声と地声を繋いでいく事など)だとすると、左側は憧れている歌の中での音としての現れ(美しい母音、自然なビブラート、スムーズなフレージング・正確な音程など)となりましょうか。

一見「右側=道具」を使って「左側=結果」を求めていく事のように思えますが、「結果を常に想像して思い描く事が道具の開発を助ける」とも言えます。

つまり出口からのアプローチも必要なのです。

先述の「アルハンブラの思い出」の例では、僕が持っていた、この曲に対する「あんな風に弾きたいんや!」という音楽的な憧れが、まだ道具として未熟だったトレモロ奏法の成長を確かに助けました。

情感を込めて弾く事によってしか現れてこない「音の流れ」や「スムーズな繋ぎ」が、それまでの僕のトレモロ奏法には欠けていたのでしょう。

そしてそれが今以上にテクニックが磨かれる事を阻んでいたのでしょう。

ボイトレでも似たような事は確実に起こります。

例えば、自然なビブラートは喉をより自由な状態へと導いてくれます。

それから母音を綺麗に発音して歌う事もまた、喉の状態の修正に繋がると考えられています。

これは少しファンタジックで迷信じみた事のように聞こえるでしょうか?

でも良く考えると当たり前の事のようにも思えます。

「母音が綺麗に響いている状態=喉が自由な状態」な訳ですから、逆もまたしかり、という事なのでしょう。

そして母音を丁寧に響かせて歌う事で、音程をより確実にすることができます。(響かない母音はフラットして聴こえてしまいます。フレーズがどうも凸凹して安定感が無い時は、まず母音の響きを均等に保つ事を考えた方が良いように思います。)

さらに、一音一音丁寧に響かせる事によって、伴奏に比して歌が「走る」のを防ぐこともできます。まさに良い事だらけですね!

僕は下記の書籍を読んだ時、むしろボイトレにこそ「トンネルは両方から掘る」事が必要なのだと強く感じました。

コーネリウス・L・リード著の「ベル・カント唱法 その原理と実践」の中にはそんな意味の記述がたくさん出てきます。

この本を読むと、特に母音についての記述ではこれまでの考えが変わるかもしれません!

YUBAメソッドをされている方は、その源流となる本なので、新たに開眼される事請け合いです!

随分たいそうな名前ですが、中身はとても読みやすく解りやすい本なので、機会があればぜひ一読ください。

 

まとめ

ボイトレでミックスボイスを得る、大きな声量を得る、裏声と地声を強くする・・・これらの事は結局は歌う為の道具です。そして誰もが、これらの道具を得る事を目標にしてにボイトレしているのではありません。

本来の目的である「憧れの歌」の素晴らしいサウンドを頭でよくイメージして、必要な道具の開発に精進していけたら、と思います。

 

以上御精読ありがとうございました。

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