僕がレッスンをさせてもらっている人には、例外なくアンザッツトレーニングをやってもらっています。
繰り返しになりますが、アンザッツトレーニングとは「喉を吊る筋肉=喉頭懸垂機構」を鍛えるための、いわば「喉周りの筋トレ」です。7種の声色を順次発声することによって「喉を吊る筋肉」を効率よく鍛える目的でフレデリック・フースラーによって考案されました。
この「喉を吊る筋肉」の衰弱こそが、「自由に歌う」という、全ての人に分け隔てなく与えられた人間の素晴らしい能力を、ほとんどの人が満足に発揮できない原因となっています。
そして「喉を吊る筋肉」は、日常の会話などでは到底鍛えられるのものではなく、それに特化した訓練が必要です。
なのでアンザッツをやらないボイトレはあり得ない、とも言えるとても大切な訓練であり、まさに声を変えたい全ての人にとっての「必須科目」であると言えます。
僕は自分自身のボイトレおいても、このアンザッツトレーニングは毎日必ず行なうようにしています。
練習に「一本の柱」があることは何かと都合が良いもので、短い練習時間しか取れない時などは、僕はアンザッツトレーニングのみを行うようにしています。
そしてこのアンザッツ、ほとんどの人にとって(もちろん僕もです)得意なものと不得意なものがあると思います。例えば「1番」や「5番」のように”鋭い声”が苦手な人、また「3a番」や「6番」のように”深い声”が上手くいかない人・・・
人は皆それぞれ、違った環境でそれぞれの喉を使ってきており、その傾向も十人十色です。よって筋肉の使用頻度も様々であり、使用頻度が高い筋肉は育ち、頻度の低い筋肉は眠ったままの状態であることは容易に想像できるのではないでしょうか。
つまり(特にボイトレの初期は)「出しやすいアンザッツ」と「出しにくいアンザッツ」が混在することは、いわば当たり前のこととも言えます。
今回は、そんな「アンザッツの出来のバラつき」について書いてみたいと思います。
お付き合いください。
アンザッツのバラつき=筋肉の発達のバラつき
上に書いたように、音質面・音量面の両方から見たアンザッツの出来不出来のバラつきは、そのまま「そのアンザッツに使われる筋肉の発達のバラつき」だといえます。
例えば(とても単純な表現ですが)”鋭い声”が苦手な人は「喉を上に引っ張る筋肉」が弱く、”深い声”が苦手な人は「喉を下に引っ張る筋肉」が弱い、といえます。
実際には、各アンザッツには”喉を吊る筋肉を鍛える”ことに加えて、”喉の中の筋肉を鍛える”目的もあります。つまりアンザッツトレーニングを行うことで「喉の外と中」に同時に働きかけているイメージです。
アンザッツトレーニングで発声される声から「喉の機能性」を想像することができます。つまり苦手なアンザッツがあることは「その声を出すことによって鍛えられる筋肉が未熟」であるともいえます。
全てのアンザッツをトータルで強くしていく意識が大切
ボイトレを始めたばかりの人が特に念頭に置いておいてほしいことは「現代人のほとんどすべては喉が衰弱している」という事実です。
つまり仮に「良く鳴る、得意なアンザッツ」があったとしても、その声でさえ人間という種が持つ喉の潜在能力から考えると「まだまだ未熟」だという事です。
なので、アンザッツのバラつきは「弱いアンザッツがある」というよりは、「全て弱いが、更に弱いアンザッツがある」と考えて、全てのアンザッツをトータルで強くしていく必要があります。
「人間という種が持つ喉の能力」・・・この「凄さ」「素晴らしさ」は想像を絶するものです。「凄いアンザッツを出す人」の声を聴けばそのことが分かります。まさに”窓が割れて、壁が崩れるのではないか?”と思うほどの強烈さです。
その上で苦手なアンザッツをよく練習する
上で書いたように「全てのアンザッツをトータルで強くする」ことを念頭におきながら「苦手なアンザッツ」は、やはりよく練習するべきでしょう。
「音質が満足できない」「音量が足りない」と感じるアンザッツは、そのまま「弱い筋肉」の存在を意味します。
また、ボイトレしていて「仕上がりの遅いアンザッツ」(練習の最後の方になって、ようやく満足のいく音質・音量になってくる)アンザッツも「弱い」と考えた方がよいと思います。(そのアンザッツに使われる筋肉は、現状は少し「目覚めが遅い」のでしょう。)
(一例)僕自身のアンザッツのバラつき
僕自身のアンザッツのバラつきについて書いてみます。
僕の中では「5番」が、音質・音量ともに一番弱く、また仕上がりにも時間がかかります。(いつも「5番」が良く鳴り始めるのは、練習の最後の方です)
なので、僕がいつも一番時間をかけて練習するのがこの「5番」です。そうすることによって各アンザッツのバラつきは今は少なくなってきています。
僕はライブ前、自分の喉の状態を確かめるためにも「5番」の出来を目安にしています。つまり「5番」が音質・音量とも満足いく段階になったなら、僕の喉は「準備万端」なのです。また「5番」は「イ母音」と関りが深いため、「イ母音」の発しやすさも目安にしています。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
アンザッツの出来のバラつきは誰にでもあるものです。そもそもアンザッツがどれも満足に発声できるなら「喉を吊る筋肉」が強靭でバランスが良いという事になるので、声に不自由さは感じないはずです。
また現状「得意なアンザッツ」があっても、人間の喉の潜在能力から考えたらそのアンザッツでさえ「まだまだ未熟」であることは間違いないと思います。
やはり全てのアンザッツを音質・音量の両面からどんどんと強くしていき、弱いアンザッツはさらに引き上げる、という考え方でボイトレに取り組んでいくべきだと思います。
以上、ご精読ありがとうございました。