こんにちは!京都のボイストレーナー、石橋謙一郎と申します!
今回は、裏声のさらに高い音域にある「超高い声=ホイッスルボイス」について解説していきたいと思います。
ホイッスルボイスは別名「フラジオレット」とも呼ばれ、その音色は”細く甲高い笛の音のような声”と表現されています。
【ホイッスルボイスです】↓
このような声、女性歌手が歌の中で使っていることがありますね。
難しい技術!?
色々なボイストレーニングの本を読んでも、ボイストレーナーのレッスンを受けても、ホイッスルボイスはいわゆる「特殊技術」と考えられている場合がほとんどです。
僕自身もそのように考えていましたし、僕の周りではホイッスルボイスを意のままに操れるシンガーは一人も居りませんでした。
僕自身はホイッスルボイスを出すことは出来るのですが、声量や音程を調節して、実際の歌の中で用いることはやっていませんし、できません!
つまり、ボイトレ界では「ホイッスルボイスで歌う=難しい技術」と考えられています。そして実際に難しいのです!
出すための準備
僕の経験から確実に言えることは、実際の歌の中で使おうが使うまいかはともかくとして「全てのボイトレ学習者やシンガーは、ホイッスルボイスを練習しなければならない!」です。その理由は以下の通りです。
- 裏声の音域を伸ばすために
- 歌声全体から”重さ”を取るために
- 高音で歌うために
裏声を半音ずつ高くしながら発声していくと、初心者は「段々と声が大きく厚く」なってしまう人がほとんどですが、ボイトレをさらに先へ進めるためには裏声を小さく細くしていくことができなくてはいけません。
裏声は「大きく厚く」でも、「小さく細く」でも発声できるようにならなくてはいけませんが、特に始めのうちは「小さく細い裏声」を出せるようにすることがとても大切です。それが出来て初めて歌声の”重さ”を取ることができ、高音発声への道が開かれます。
「小さく細い裏声」を半音ずつ高くしていくと、自然にホイッスルボイスに繋がることがあります。
ホイッスルボイスを出す時の感覚・イメージは「小さい・細い・軽い」といったものなのです。
なので意識的に「大きい・厚い・重い」などの感覚・イメージを取り払う必要があります。
【ホイッスルボイスへの移行失敗!】↓
【ホイッスルボイスへの移行成功!】↓
僕がこれまでに指導した人達の中でも、プロのシンガーとして歌ってきた経験の長い人ほどホイッスルボイスの練習には苦労していました。
長年ステージに立って歌っているベテランシンガーたちは、無意識に「大きくて厚みのある声」を目指してしまいがちなので、年数を重ねるに連れて「小さい・細い・軽い」といった声を出し辛くなっていることが多いです。
出し方のコツ
なかなか簡単にはいかないホイッスルボイスですから、まずはその声を「出すこと」にさえ苦労する場合がほとんどです。
こんな方法で練習してみてください。
- 音程の上昇と共に「段々細く、小さく、薄く」するように、裏声を練習する
上記のように裏声を練習していると、自然にホイッスルボイスに移行できることがあります。
この時の感覚は「あれ?声が突然細くなったぞ!どこまででも裏声を高くしていけそうだぞ!」と、そんな感じでしょう。
音程を上げていくに従って声が大きくなったり、フラットしてしまったりしたら失敗なので、また低い裏声からやり直してください。
- 硬口蓋に声を当てるようにする
口の中の操作感覚としては硬口蓋(上顎の前の方の硬い部分)に目掛けて声を当てるようにしてください。
ただし、あまりしつこくやらないようにしましょう。やればやるほど上手くいかなくなってくると思います。
- 朝起きた時に高い裏声を出してみる
起き抜けに高い裏声を出そうとすると、時々すっぽ抜けたような甲高い声が出ることがありますが、この時の感覚がホイッスルボイスの発声感覚です。
ホイッスルボイスを出すためには何よりも”脱力”が大切なので、身体が完全に目覚めていない時の方が意外に上手くいくこともあります。
喉の中はこんな風
ホイッスルボイスを出している時、喉の中は、以下のようになっていると考えられています。
- 喉頭周りの筋肉が全然働いていない
- 声帯を開く筋肉が働いていない
- 喉頭の中は”前に引っ張られたように”、サイズが小さくなっている
(1)に関しては「脱力」の感覚と合致します。
普通、歌声を出す時には喉頭周りの筋肉が喉頭をガッチリと繋ぎ留めて、喉頭の中にある声帯が本来の力を発揮できるようにする必要がありますが、ホイッスルボイスを出すには全く逆の状態に持っていく必要があります。
「喉頭周りの筋肉」は力強く豊かな歌声にとって一番大切なものですが、あえてその働きを封印する必要があります。
(2)に関してはホイッスルボイスの音色を聴けば納得がいきます。
声帯の2枚のヒダの隙間が開いている=息が漏れている状態ですが、ホイッスルボイスにははっきりと「芯」があり、息漏れの様子がまるで感じられません。
声帯の2枚のヒダを閉じる力が強いほど、声には「芯」が生まれますが、ホイッスルボイスの場合は「声帯を閉じる力が強い」というよりも「声帯を開く力が弱い」と考えるべきでしょう。
(3)は、「硬口蓋に声を当てる」というホイッスルボイス発声時の感覚と合致します。
(2)で書いた「声帯を開く」ための筋肉は喉頭の後ろ側にありますが、この働きが弱いために声帯は前方に引っ張らてしまいます。
さらに(1)で書いたたくさんある「喉頭周りの筋肉」の中でも特に歌声に安定を与えるのは「喉頭を下に引っ張る筋肉」ですが、この働きも弱いため、ホイッスルボイスは「口の前側の上方」つまり「硬口蓋に声を当てる」という発声感覚になります。
こんなボイトレが効果的
さて、ホイッスルボイスを出すための練習について書いてきましたが、実際の歌の中で音程や音量を操り、ダイナミクスをつけて使いこなすにはまた更に訓練が必要となるでしょう。
ただし、ホイッスルボイスの練習ばかりすることは良くありません。
ボイストレーニングの基本となる訓練指針に「偏った練習を避ける」というものがあります。
これは大昔からのボイトレの伝統の中でずっと言われてきたことです。
つまり「ある特定の声ばかり練習することは、他の声の機能を止めることである」という意味合いですから、ボイトレというものは、歌の楽器の全ての部分をバランスよく練習しなければなりません。
ホイッスルボイスを自在に操るためには、「呼気筋」「喉頭の中」「喉頭周りの筋肉」の三つの部分を地道に訓練するというベーシックなボイトレがもちろん必要なのですが、その中でもホイッスルボイスで歌うためには「喉頭周りの筋肉」の練習が一番大切ではないかと思います。
ホイッスルボイス出すためには「喉頭周りの筋肉」を働かないようにする必要があることは既に書きましたが、そのためには「喉頭周りの筋肉」の操作に習熟する必要があります。
首や胸と喉頭を繋いでいる「喉頭周りの筋肉」は四方に広がっていますが、それらを思いのままに操作できるようになってはじめて、それらを「働かせないでおく」ことが可能になります。
「働かせることができる能力」と「働かせないでおく能力」はワンセットなのです。
ホイッスルボイスを部分的に使う歌を歌う時、ホイッスルボイスを使う箇所は「喉頭周りの筋肉」のスイッチを切り、その他の箇所は「喉頭周りの筋肉」のスイッチを入れる、という操作が必要になります。
ホイッスルボイスは難しい技術ですが、確かに素晴らしい効果があります。ぜひ臆せず練習してみてください!