【歌唱サンプル】「ウォーミングアップしていない声」がピッタリな歌。喉の準備が整わない状態で歌う。曲が求めている声で。

ライブで歌うため、カラオケで歌うため・・・いずれにしても”喉の準備”つまりウォーミングアップは欠かせません。野球に詳しい人から聞いた話ですが、1~2回しか投げない”抑え”の投手よりも、先発して長い回を投げる投手の方がより多くの準備投球をするそうです。普通考えると「長い回を投げる人がウォーミングアップでそんなにたくさんの投球をして疲れてしまわないのか?」と考えてしまいますが・・・長く投げるためには、より慎重な身体の準備が必要だということでしょうか。

そういえば僕も”たくさん歌うライブ”の時の方が丁寧にウォーミングアップをしています。「練習で疲れてしまう」という心配よりも「今日の長時間のライブ、喉がよりスムーズに仕事をしてくれますように」との願いの方が強いためです。

声を正しくウォーミングアップすると、地声と裏声の境目の断絶は小さくなってきて、声全体が一本に繋がったような状態になり、音質は金属的な響きをまとい”張り”が出てくるでしょう。もちろん一般的な”良い声”とは、そういう状態なのだと思います。

一方ウォーミングアップしない声は、張りがなく虚ろで不安定、声量も乏しく機敏性にも欠ける・・・そんなところでしょう。一般的に”良い声”とはとても呼べない状態です。

けれど、そんな”良い声”とは呼べない状態の声がピッタリとマッチする歌も当然存在するはずです。特にロック・ポップスというジャンルで使われる声はびっくりするほど多種多様です。発声的にはとても褒められたものではない声で歌う”とても魅力的な歌手”もたくさん存在します。

クラシック以外のジャンルを「ノンクラシカル」と呼んだりしますが、ロックというジャンルは”声の音質”という意味でも極めて”ノンクラシカル”なのではないでしょうか?クラシック的には”醜い”声も、一部のスタイルのロックにおいては”美しい”のですから。

 

さて今回、”ウォーミングアップしていない声”で歌うとピッタリとハマる曲を、”ウォーミングアップせずに”歌ってみました。

君がいたなら、君がここにいてくれたなら。

僕らは、来る日も来る日も金魚鉢の中を泳ぎ回る二つの失われた魂のようだった。

僕らは相変わらずの地面の上を走ってきたけれど、結局見つけたのは、相変わらずの恐怖だけだった。

ああ、君がここにいてくれたなら。

他のブログ記事でも取り上げたイギリスのバンド・ピンクフロイドが1975年に出した同名アルバムからの曲「あなたがここにいてほしい」です。(本物は印象的なイントロや間奏がありますが、ここでは割愛しています)

この曲、日本での知名度はあまり高くないようですが、イギリスやアメリカではとても有名な曲のようです。余談ですが、僕にとっても思い出深い曲で、大学のクラブの合宿で歌ったりソロコンサートで度々演奏したり・・・とにかく大好きな曲なんです。(そういえば僕のボイトレ仲間も彼のソロコンサートでこの曲を歌ったようなので、少なくともロックファンには知られている曲なのだとは思います)

この曲は「張りのある」「力強い」「活き活きとした」などの、所謂”良い声”で歌ったのでは全然サマにならないはずです。歌詞にあるように、”あなた”の不在を切々と嘆く歌なので、むしろ「痛々しい」「すがりつくような」といった印象の声こそぴったりとマッチすると思います。この曲が求めているのは、十分にウォーミングアップされた喉が出す声よりも、むしろ準備の出来ていない喉がやっとのことで絞り出す声なのでは、と感じます。

また、この曲の持つ”引きずるような”スローな印象は、準備不足の”機敏性に欠ける”喉の動きともピッタリとマッチします。

「あなたがここにいてほしい」はメロディーも”行き当たりばったり”な印象です。何かこう・・・”あなた”に伝えたい強い思いがあるのだけれど、字面を整えてはとても言えない・・・誰に向けてでもなく独り言のようにポツリポツリと語っている・・・僕にはそんな風に聴こえます。

最後に、この曲の一番肝になる点・・・歌詞にある”あなた”とは、実は男性のことなのです。通説によると、ピンクフロイドの創始者であり精神的な病のためにバンドを去ったシドバレットのことが歌われているそうです。

「あなたがここにいてほしい」というタイトルを見たとき、ほとんどの人は”女性に向けた大バラード”だと想像するでしょう。けれど実際は、友人の不在と、残された者たちの不安を歌った歌なんですね。このあたり、タイトルと内容のギャップにも僕はとても惹きつけられます。

 

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